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論文要旨

Vol. 57, No. 2, pp. 110-120 (2006)

『不良債権と債権放棄―メインバンクの超過負担―』
福田 慎一 (東京大学大学院経済学研究科), 鯉渕 賢 (東京大学大学院経済学研究科)

本稿の目的は,最近の債権放棄事例におけるメインバンクの超過負担を,産業再生機構の案件における事例や,1990年代前半以前に行われた債権放棄事例との比較を行うことによって再検討することにある.最近の事例でも,産業再生機構の案件を例外とすれば,大口の債権者が小口の債権者よりも多くの損失を負担するスキームが標準的であった.しかし,金融環境の大きな変化に伴って,メインバンクが高い債権放棄比率を負担して借り手を救済するインセンティブは大きく減ってしまった.一方,長引く経済低迷の中で,ソフト・バジェット問題による債権放棄は増加した.また,産業再生機構による支援企業では,債権放棄負担比率がほぼ融資比率に対応する比例配分法になっており,メインバンクによる超過負担は観察されなかった.以上の結果は,「イザというときの貸し手」として顧客企業を救済したメインバンクの役割が,近年急速に低下していることを示唆するものである.