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論文要旨

Vol. 57, No. 1, pp. 72-91 (2006)

『「福祉国家」政策論への規範経済学的基礎付け』
吉原 直毅 (一橋大学経済研究所)

「福祉国家」政策を巡る近年の論争の背景には,伝統的な厚生経済学が立脚する厚生主義とそれを乗り超える規範的価値を持ち込む非厚生主義との間の規範理論の対立を読み込むことが可能である.本稿は,伝統的な厚生主義的厚生経済学の射程を超えた,より包括的な多元的価値基準の体系を提起し,それらの諸価値観の互いにあい対立し得る主張を調整して整合的な社会的政策判断を形成するための仕組みを提起する.そのような仕組みは拡張された社会的厚生関数として定式化されるものであって,また,互いにあい対立し得る多元的諸価値観として,ここでは (1)労働主権,(2)非厚生主義的な分配的正義の基準,(3)厚生主義的な経済的効率性基準の3つの観点を公理として定式化した.さらに,これら3つの公理の主張を調整することによって,拡張された社会的厚生関数が整合的に厚生可能となるための条件について議論した.