明治初期から昭和の初めにかけて,日本の養蚕製糸業は,国際的にも類例を見ない程の急速な成長を展開したが,本稿はその達成要因を当該産業の技術革新ないし技術改良に求めようとしたものである.とりわけ早くから蚕糸業の発達していた中国やインドの技術および技術改良との陰状的比較により,日本の技術の特異性を把握しようとしたものである.
その結果,我々は2つの国際的にも珍しい技術的特徴ならびにそれを形づくった強い技術的改良への意欲を見出した.まずその1つは,独特な小枠再繰式を採用したことである.しかもそれが効果的に機能すべく,製糸教婦体制の拡充を図る一方,品質志向的出来高給賃金制度を導入し,個人別生糸検査の厳格化を通じて,生糸品質の漸次的改良が実現しえたのも,すべてこの再繰式技術と直結していたのである.
また2つには2化性蚕の掛け合わせを通じ,その品種改良を図り,夏秋期の産繭量の安定化と著しい増産が達成されたのである.その実現に向け,風穴の利用や究理法の開発など,様々な改良努力が払われたのであった.それは更に1代交雑法や人工孵化法の開発へとつながり,結果的には世界的にも珍しい2化蚕中心の養蚕製糸業が成立することとなったのである.