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論文要旨

Vol. 56, No. 4, pp. 348-369 (2005)

『実質賃金の歴史的水準比較―中国・日本・南欧,1700-1920年―』
J.‐P. バッシーノ (ポール・ヴァレリィ大学/日仏会館), 馬 徳斌 (政策研究大学院大学/Hi-Stat特別研究員), 斎藤 修 (一橋大学経済研究所)

近年,welfare ratio という新しい指標を用いてアジアと西欧における実質賃金の歴史的水準比較を行う試みがなされている.本稿は,この新たな研究動向とその実証的成果とを,中国・日本・南欧に焦点を当ててサーヴェイする.対象とする時期(1700-1920年)のほとんどを通じて,中国・日本・南欧における実質賃金の水準はほぼ同程度であったが,その welfare ratio 値は想定生存水準である1を下回り,またイングランドとオランダにおける水準よりも明瞭に低位であった.しかし,中国・日本・南欧は小農経済が優位の地域であった.それゆえ,農業からの所得,副業の存在,年間労働日数,消費バスケットの変化などをも考慮に入れて,18世紀における小農家族世帯の生活水準を推計すると,その welfare ratio の水準は北西欧の賃金労働者のそれにかなり近づくことが示唆される.