HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 56, No. 4, pp. 304-316 (2005)

『年金課税の実態と改革のマイクロ・シミュレーション分析』
田近 栄治 (一橋大学大学院経済研究科・経済学部), 古谷 泉生 (福岡大学経済学部)

日本の年金課税の問題は,給付時に公的年金等控除が適用されることによって所得税の課税ベースが大きく侵食されていることである.本論文は,この控除が世代間(高齢者と若年者世帯)と世代内(年金所得比率によって分類した高齢者世帯)の所得税負担に及ぼしている効果を明らかにした上で,その改革として年金という特定所得への控除である公的年金等控除を廃止し,年齢を要件とする老年者控除の拡大によって高齢世帯の所得税負担の調整を図る.分析は,筆者たちが開発した,『国民生活基礎調査』(厚生労働省)の個票から税負担を推計するマイクロ・シミュレーションモデルによって行った.この分析によって,公的年金等控除によって世代間・世代内で大きな所得税格差が生じていること,および老年者控除を100万円程度とすることで世代間の所得税負担がほぼ等しくなることが示される.