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論文要旨

Vol. 56, No. 3, pp. 203-217 (2005)

『地方債をめぐる比較制度分析』
土居 丈朗 (慶応義塾大学経済学部)

本稿では,我が国の地方債制度と市場指向型のアメリカの地方債制度を,理論的に経済厚生の比較分析を試みた.我が国の現行の地方債をめぐる制度は,起債許可だけでなく,財源の使途や貸し手も予め定める地方債許可制度,地方交付税を通じた地方債元利償還金の後年度負担(措置),自治体の決済資金不足に備えた地方財政再建制度が,制度補完的に構築されている点が特徴である.この制度の下では,自治体間に信用力格差があっても地方債利子率には反映せず,地方交付税の財源である国税の納税者にリスクを負担させている性質が強い.他方,アメリカの制度では,自治体の信用力は格付等によって情報が市場参加者の間で共有され,市場における金利形成を通じて,地方債が発行されている.この下では,市場参加者(債務者・債権者)の間でより広くリスクを負担する性質が強い.これらの性質を,両国の地方債制度を紹介するとともに,定性的に理論分析を行い,わが国の地方債制度の改善点を明らかにした.