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論文要旨

Vol. 55, No. 3, pp. 261-281 (2004)

『日本の生産性と経済成長―産業レベル・企業レベルデータによる実証分析―』
深尾 京司 (一橋大学経済研究所), 権 赫旭 (一橋大学経済研究所)

本論文では,内閣府経済社会総合研究所の『日本の潜在成長力の研究』ユニットで著者が他の研究者と共同で開発した『日本産業生産性データベース(Japan Industrial Producotivity Database, JIPデータベース)』や『企業活動基本調査』個票データをもとに,日本のTFP 上昇率の最近の低迷がどのような原因で生じているかを探った.分析により,以下の結果を得た.近年のTFP上昇率の低迷は,非製造業まで含めた資本設備の稼働率下落によって,一部説明できるが,これを調整しても特に製造業においてTFP上昇率の低迷が著しい.一方非製造業では,規制緩和が進んだ産業を中心にTFP上昇率の加速が観察された.また製造業を営む企業の個票データを用いた分析により,退出効果がマイナス(生産性の高い企業が退出し,低い企業が存続する)という現象が90年代に観察された.このような市場の「新陳代謝機能の低下」と新規参入率の低下が日本の製造業の生産性低迷の原因の一つである可能性が高い.我々はまた,存続企業のTFPの変動を,規模効果,稼働率変動効果,および技術進歩に分解した.その結果,企業レベルで稼働率の変動や規模効果を調整した場合でも,技術進歩率の下落が多くの産業で観察された.