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論文要旨

Vol. 54, No. 4, pp. 353-374 (2003)

『貧困の動態的分析―研究展望とパキスタンへの応用―』
黒崎 卓 (一橋大学経済研究所)

この論文では、消費や所得が変動する場合に、ある地域や階層の貧困指標、ないしは個人レベルの貧困スコアをどのように動態的に捉えればよいかについて議論する。議論の特徴は、第1に、理論・実証双方で近年目覚しい進捗を遂げている不確実性下の消費平準化のミクロモデルに基づいた研究展望を行うこと、第2に、発展途上国とりわけ低所得国を対象に既存の分析手法を応用する際に留意すべきことに焦点を当て、事例としてパキスタン農村部の2時点パネルデータを用いた定量分析を提示することである。研究展望の結果、理論モデルとの対応、定量分析の容易さ、分析結果の解釈しやすさなどの点で既存の手法はそれぞれ一長一短を持つことが明らかになった。パキスタンの事例からは、それぞれの手法に基づく指標間の相関は低く、相互に補完的な情報を含むことが実証的にも示唆された。したがって、実際に貧困の動態を分析する際には、定量分析の目的、利用可能なデータや計量手法、対象事例におけるリスクと市場発展の度合いなどに応じて手法を使い分けたり、複数の手法を組み合わせることが重要になる。