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論文要旨

Vol. 52, No. 4, pp. 348-358 (2001)

『公的年金と家計資産』
麻生 良文 (一橋大学経済研究所), 何 立新 (一橋大学大学院経済学研究科)

この論文では、公的年金資産が家計にどのような影響を与えているかを個票データをもとに分析した。分析に用いたデータは、日本経済新聞社の「NEEDS-RADAR金融行動調査(第16回)」の個票データである。対象は首都圏の住民のみだが、調査時期が1998年と新しい。公的年金と貯蓄の関係は、Feldstein(1974)の有吊な研究以来、数多くの実証研究が行われてきた。当初、時系列集計データを用いて、ライフサイクル消費関数(または貯蓄関数)の説明変数に公的年金資産を加えるという方法でのアプローチが行われたが、Lucasの計量経済学批判に耐えられないことなど、現在では集計データによる分析の欠点が十分に認識されるようになってきた。こうして個票データを用いた分析の重要性が意識されるようになってきたのだが、日本では、個票データの入手が難しいこともあって、これまで十分な研究の蓄積が行われているとは言いがたい。また、実証研究の結果についての結論もバラバラである。分析の結果、公的年金資産が家計資産を減らしているという証拠は発見されなかった。この結果は、ライフサイクル仮説に反し、Barro型の遺産動機仮説と整合的である。