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論文要旨

Vol. 52, No. 3, pp. 220-230 (2001)

『アマルティア・センの経済学と倫理学 —厚生経済学の新構想—』
鈴村 興太郎 (一橋大学経済研究所), 後藤 玲子 (国立社会保障・人口問題研究所)

【新】厚生経済学とアローの社会的選択論を継承する現代経済学は、経済システムや経済政策の成果を評価する際に、その帰結から得られる効用のみに注目する立場に依拠している。センはこの伝統を脱却して、いくつかの理論的革新を遂行した。第1に、社会的選択の問題を抽象化して個別問題に含まれる内容的差異を見失いがちな正統派の枠組みを批判して、制度・政策の望ましさを判断する公共的判断の問題と、人々の利害対立を解消するための制度設計の問題を識別して、それぞれの文脈に適合的な理論を構成した。第2に、個人的先行の多層性を明示的に考慮して、個人の事実的選考と倫理的選考を識別する枠組みを構成した。第3に、帰結の効用に専ら依拠する枠組を超克して、帰結の背後にある選択の機会や、選択手続きの内在的価値を積極的に評価する規範的経済学の端緒を開いた。本稿はセンによるこれらの革新の意味と意義を解読・吟味したものである。