HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 52, No. 2, pp. 143-156 (2001)

『人事評価と賃金格差に対する従業員側の反応―ある製造業企業の事例分析―』
都留 康 (一橋大学経済研究所)

本稿では、製造業企業A社の労働組合員の意識調査から得られた個票データを用いて、人事評価や賃金格差に対する従業員の反応を分析した。はじめに、A社の企業組織、人事制度、労資関係の特徴を明らかにした。次に、連合組合員に対して実施したのと同一質問によるA社労働組合員調査の概要を説明した。そして、①主観的賃金格差、②主観的賃金格差と客観的賃金格差との対応関係、③人事評価結果に対する紊得度、④労働意欲という4つの論点に焦点を絞り、以下の点を明らかにした。第1に、A社では目標面接を含む自己申告制度が実施されているが、それは賃金格差を認知させる機能をもたない。第2に、客観的賃金格差は実際にはそれほど大きくないのに、自分の賃金ランクは平均よりも低いと認識してしまう人が多い。第3に、A社では人事評価に対する紊得度が低いが人事評価結果に関する説明を上司が行えば紊得度が上昇している。第4に、人事評価に関する情報開示や格差の認知は、A社の場合には労働意欲に無関係か、または上昇させる傾向にあり、モラールダウンを引き起こしていない。