『アジア長期経済統計』の出版企画


尾高煌之助



1995年から5年間、「汎アジア圏長期経済統計データベースの作成」と題して、科学研究補助金(略称 科研費)による大型研究プロジェクトを実施した(課題番号07CE1001)。これを仮称して、プロジェクトASHSTAT(Longterm ASian macro-economic Historical STATisticsの略)と呼ぶ。アジアならびにその周辺で、比較的容易にマクロ経済史統計が収集できる地域を選び、国民経済計算の概念枠組みにのっとった時系列(年次)加工統計を作成して一般公開するというのがその狙いだった。

狙いは単純明快だが、野心的な作業だから、その執行は容易でない。原資料を集め、その精度等を吟味するだけでも大変な仕事なのだ。だから、プロジェクトが終了する時点(2000年3月末)でも、遣り残したところがいっぱいあった。(実は最初から、5年間で完了できるとは思っていなかった。)現在でも、正直なところ、本来のゴールに到達してはいない。推計作業の性格からすれば、永遠に到達しなくても当然なのかもしれない。

だがそれでも、少なからぬ発見をした。暫定的な性格はあるにもせよ、その成果をこの世の人々と共有したい。公金で実施した研究なのだから、公表は当然の義務でもある。

そこで、無理は承知で、プロジェクトASHSTATの推計結果を公刊することにした。幸い、以下に掲げる編集責任者の方々のご快諾を頂き、また東洋経済新報社出版局の格別のご配慮を得て、出版プランを作成した。このプロジェクトには、その概念的下敷きとして、1965年から1988年にかけて東洋経済新報社が世に問うた日本の『長期経済統計』全14巻(略称LTES、大川一司・篠原三代平・梅村又次監修)があった。同社から成果を刊行できるのは、編集員会としてこの上ない喜びである。

この決定をうけて、上記のプロジェクトが2年前に終了するまでに作っていた小さな情報誌を、不定期にではあるが継続刊行することにした。公刊に関連する情報や経済史にまつわる話題を年に1、2回の頻度で提供するためである。以下、今回の出版企画の大綱を説明する。


[概要]

監修者:尾高煌之助(法政大学経済学部)/ 斎藤 修(一橋大学経済研究所)/ 深尾京司(一橋大学経済研究所)

巻名(刊行予定順)

1 台湾: 溝口敏行(広島経済大学経済学部)

2 ヴェトナム: ジャン-パスカル・バッシーノ(オーストラリア国立大学商経済学部)

3 中国: 南 亮進(城西大学経済学部)・牧野文夫(東京学芸大学教育学部)

4 コリア: 溝口敏行・表 鶴吉(ソウル国立大学経済学部)

5 タイ: 末広 昭(東京大学社会科学研究所)

6 インド/パキスタン: 清川雪彦(一橋大学経済研究所)

7 インドネシア: ヴァン・デア・エング(オーストラリア国立大学商経済学部)

8 ロシア(別巻): 久保庭真彰(一橋大学経済研究所)

9 エジプト/トルコ: 加藤 博(一橋大学経済学研究科)

10 フィリピン: 永野善子(神奈川大学外国語学部)・尾高煌之助

11 中央アジア・極東ロシア: 西村可明(一橋大学経済研究所)

12 日本: 深尾京司・尾高煌之助

注:(a)上記の配列は、刊行準備の進捗状況に照らして並べた、仮の刊行順序による。
(b)上記以外の地域の統計も、採録する場合がある。
(c)全巻の刊行は、4年から6年以内で終了の予定。
(d) 2006年2月28日、執筆者の所属を改訂した。

[章別構成およびスタイル]

1. 巻の構成:
(1)国土ないし領土の返還(系列がカヴァーする地理的領域とその変遷、時系列を利用する際の注意事項(もしあれば)、必須ならば歴史地図、および先行諸業績の展望とそれらに照らしたときの本書の位置付け。
(2)統計制度と統計精度の概観
(3)推計結果
【1】 人口
【2】 労働力と(以下の3〜7に対応する)主要産業別雇用
【3】 農林漁業の名目ならびに実質生産高
【4】 鉱工業の名目ならびに実質生産高
【5】 建築業、運輸通信業、電気・ガス・水道業の名目ならびに実質生産高
【6】 公共セクターの名目ならびに実質生産高
【7】 商業、不動産、その他サービス産業の名目ならびに実質生産高
【8】 金融(通貨残高)、GDPデフレーター、卸売ならびに小売物価、消費者物価指数、賃金、利子、外国為替相場
【9】 財政収支(可能ならば)
【10】 対外貿易(国際標準分類による主要商品大分類別と総額)および国際収支
【11】 個人消費支出(可能ならば)ならびに生活水準
【12】 資本形成と資本ストック(可能ならば)
【13】 実質ならびに名目GDP(ないし国民所得)系列(不可欠。国や時期によっては、オリジナル系列でなくてもよい。なお、借り物系列の場合は著作権をクリアし、またその系列を選択した理由に必要十分に叙述する)
【14】 その他(地域の経済発展の理解に必要な固有の事情に関する解説や資料紹介等)
(4)付属統計表(本文の4〜6割を目途とする)、およびCD-ROMに収納する統計表一式(主要推計結果のほかに参考統計を収納。ただし加工統計を対象とし、原資料は収納しないことを原則とする)
(5)各章ごとの英文梗概(資料、推計方法、主要結果)

2. 各章の内容:典拠、推計方法・推計結果および解釈、主要文献リスト、補論(原資料の解説)、の順に叙述する。巻末に索引をつける。

3. 対象期間:主要系列の場合は、原則として独立前から20世紀末までを網羅する年次系列。標準として、1901-2000年(つまり20世紀)を網羅する。欠損値はできるかぎり補充し、補充方法を解説する。ただし、参考系列の場合は、必ずしも全期間を網羅しなくてもよい。

4. 統計表のフォーマット:統計表には、推計方法を略述した注記を付する(本文とあえて重複)。タイトル、注、典拠には簡潔に英訳をつける。

5. 既存の推計や出版物からの引用:資料・系列等を引用するときには、著者の責任で著作権をクリアしてその旨を述べ、検索するために必要十分な典拠や所蔵場所などを記載しておく。


[公刊のスタイル]

1. 主要な推計結果は冊子態のなかに、その他の系列はCD-ROMに納める。各巻刷り上がり300ページ以下。原資料は採録しない。

2. 著作権・出版権上の問題がなければ、推計の主要結果をインターネット上に公開する。状況によっては外国語への翻訳もあり得よう。

3. 原資料ならびにワークシートの保管:原資料は、そのオリジナルまたは複本を一橋大学経済研究所資料室に収納する。また、推計ワークシートは製本して同室に納め、将来の系列改定作業に備える。

(法政大学経済学部教授)