付録1: 先行研究のまとめ

 

    ●島村史郎 ……『 中国年鑑 1983年版 』p11:

      
      

      第1回人口センサス… 本土人口5億8060万人

                 総人口 6億 193万人( 台湾、海外華僑を含む )

      第2回人口センサス… 本土人口6億9458万人

                 総人口 7億2307万人

      第3回人口センサス… 本土人口10億 818万人

                 総人口 10億3188万人( 台湾・香港・マカオを含む )

     

    ●若林敬子『 中国の人口問題 』東京大学出版会、1989。

      …… p129 : 「 孫冶方氏によれば、中国で統計が一応信頼できたのは53年からの第1次五ヶ年計画の時だけ、それも農業統計は除くと言われる。 」

      …… p140 : 統計の信憑性について。戸口登記人口と人口センサスとの不一致( 出生率など )。第3回人口センサス実施前の戸口の事前点検( 610万人の重複と540万人の脱漏是正 )。

      …… p137&152〜153 : チベットでは、前2回のセンサスは実施されず。

       

        
        

        センサス     1次        2次      3次

        本土人口   5億8060万人    6億9458万人   全国総人口

                                ( 香・マ・軍人含む )

        総 人 口   6億 193万人    7億2307万人  10億3188万人

        華  僑    1174.3万人

        備  考   辺境地区、台湾、         交通が極めて不便なチ

               国外(華僑、留学         ベット自治区の一部(2

               生)は別の方法に         万8601人)を行政資料に

               よる。              より見積もる。以外は

                                すべて直接法。国内居

                                住の中国籍者が対象。

                                海外華僑除外。

     

    ●黄栄清(「 中国の人口動態統計の評価 」)

      86年、国務院の「 労働者雇用に関する試行規定 」による、10月1日からの頂替制度の禁止 → 新労働法施行前に子どもの年齢を公安派出所に変えに行く現象が多くの地区で発生。(p96)

      厳格な戸籍管理 → 1980年代前に公布された人口数値は比較的正しいというのが人口学者の評価。

      戸籍登録制度の人口動態統計としての機能が部分的に破綻 → 統計局、82年から、毎年一回「 人口変動標本調査 」を実施。標本数値は50万人。また、87年には「 1%人口抽出調査 」を実施。81年以来、毎年公表される『 中国統計年鑑 』記載の人口動態統計( 出生率、死亡率 )はその抽出調査による推計値。

      p98−108 …( 出生率、死亡率、婚姻についての公表値・人口学者による推計値との比較分析 … 中・蒋正華と米・Ansley.J.Coale … 出生報告の漏れ率は60年代初期に高いが、以後、75年までに10%を割り、小さくなる。中期以降、上昇。… 50年代の頃以前は死亡の漏れ率が比較的大きく、40%を超えることもある。60年代半ば以後、死亡の漏れ率が小さくなる傾向が見られる。 )…『 中国統計年鑑 』公表の出生率・死亡率統計は82年までのは戸籍登録に基づく集計値。家族計画プログラムが展開された70年代中期までの出生統計はかなり正確性が高い。… 82年以降の出生率は「 人口変動標本調査 」による推計値。誤差は86年有意水準5%で出生率の標準誤差が 3.4×10 ( マイナス4乗 )、信頼区間が( 19.79‰,21.15‰ )……。… 出生・死亡統計は54年から開始、同年から公表されている。それ以前は推計値のみ。第2回人口センサスの調査前に行った戸籍整理で死亡として取り消したはずのものが取り消されずに戸籍に残っていた者は800万人といわれる。… 問題は3年困難時期( 59−61年 )で、死亡人数値の過少評価。『 中国統計年鑑 』公表の死亡率は統計関係者による推計値。… 人口数値と自然増加率に関する統計について: 82年( 第3回人口センサス )基準の公表値と蒋、コールの推計値との比較分析。60年代半ばから『 中国統計年鑑 』の人口数値と2つの推計数値との差異は1%以内に過ぎない。しかし、毎年の人口増加率でみると、いくつか不適合な個所あり。国際人口移動はほとんど無視すべきほどに少ないと推測されているので、本来、一致するはず。( 11表 ): 多くの年で異なる数値。特に、60年と61年の差異が顕著。「 多分、過去の若干データの間違いがあり、事後に気づいてそれを修正したが、データ全体を修正することが不可能なため、結局各種の指標の間に不合理性が出てくると推測される 」。… 60−61年の経済困難期の香港への流出数値は未公表。

     

    ●楊子慧主編『 中国歴代人口統計資料研究 』改革出版社、1996年。

      … p1516〜

        中華人民共和国成立後、人口統計は、内務部、公安部、農業部、国家統計局が分割管理。内務部統計では、1950年3月の全国人口( 台湾含まず )は48,368万人、同年9月で49,659万人、1951年6月で52,688万人、10月末で55,909万人。統計基準が異なることによる各地の報告の不一致、誤差の過大が明らかである。

        1951年末の内務部、国家統計局、農業部(「農業人口」)による人口数値は、表1-2の通りであった。後に、国家は1949〜52年の人口数値を表1-1の通りに審査・決定した。

      … p1518〜

        第一回人口センサスでは、香港・マカオ人口は間接調査。後に、人口統計方法をいくぶん改変し、香港・マカオ人口を大陸人口から削除、チベット人口を大陸各省区の人口に含める。この規定に基づく1953年の全国人口数値は表1-4の通り。

        ここでの「 全国人口 」には、いくつかの表現方法がある:

          @ 大陸各省区の人口、部隊人数値、台湾・香港・マカオ人口数値、海外華僑、留学生、大使館・領事館人員等を含む場合: 601,938,035人。この方法は、1982年以降、使用しなくなった。

          A 大陸各省区の人口、台湾、香港、マカオ人口で、590,194,715人。これは人口密度の算定に用いる数値。

          B 大陸各省区の人口と部隊人数値で、580,603,417人。これは新中国政権の管轄範囲内の人口数値。

          C 部隊人数値を含まない大陸各省区の人口数値は、575,856,141人。これは戸籍年報統計に常用する一つの統計基準。部隊人数値は各地方の戸籍には含まれず、単独で統計をとるため、各省市自治区の人口数値には含まれない。

      … p1521〜

        1959〜61年の時期の人口統計は極めて不正確。1964年のセンサス結果から振り返って推計してみるに、三年経済困難時期の毎年の人口数値はみな不正確。1959年1年間の全国の出生数値は1,647万人、死亡数値は970万人、自然増加数値は677万人、自然増加率は前年より7.05‰低下、比較的実際的な数値。だが、統計上に反映された総人口増加数値は1,213万人、前年より128万人少ない増加、年増加率は依然として1.8‰を維持、これは実際に適合しない。その原因について、多くの地方政府は人口増加があまりにも緩慢であることが信用できず、人口数値を大目に報告したため。さらに、1960年について見ると、総人口は1,000万人減少、統計上の出生は1,389万人、死亡は1,693万人、純減少は304万人で、明らかに低すぎる( 絶対数値を指す )。また、1961年は、総人口は348万人減少、自然変動は逆に249万人増加、両者は相反し、数値も不正確。その原因は、各地が問題の漏れるのを恐れて、故意に死亡人口数値を少なめに報告したため。

        1964年の人口センサス資料から振り返って推計すれば、1961年の人口数値は64,508万人、1958年の統計人数値よりも計1,486万人減少しているべきであるが、一方、もとの統計総人口はたったの135万人の減少にとどまり、自然変動は逆に622万人の増加なので、調整が必要である。

        1959年の自然増加677万人に基づいて計算すると、総人口は65,994万人に677万人を加えた66,701万人と成るべきで、もとの統計の67,207万人ではない。1960年と61年は尚2,163万人減少しているべきで、1960年のもとの統計1,000万人の減少を1,500万人の減少に調整する。1961年のもとの統計348万人の減少を663万人の減少に調整する。こうした簡単な調整作業を経て得られた1959〜61年の三年間の人口数値は表1-8( pp1523 )の通りとなる。

        三年経済困難時期を過ぎて後、人口減少は1千万余りで、総人口と出生、死亡人数値はみな誤差が出現した。人口が結局のところ何人かはとっさにはつかめず、毎年の年報統計の総人口数値と自然増加人数値との誤差は大変大きい。1959年から64年のセンサス実までの総人口増加数値と自然増加数値との差は数値百万である。( pp1523表1-9参照 )同表でなぜ、総人口増加数値が自然増加数値よりも少ないのか。それは三年経済困難時期に計1,486万人減少したが、一方、年報計算ではたったの135万人の減少。年報統計の人数値は1,351万人の過大報告、依然として生存人口を総人口中に含めており、62年以降は各年において人口数値の過大報告は減少したものの、いったいどのくらいの過大報告があったのかについてはセンサスを実施する必要があった。センサス結果からは、64年で尚820万人の過大報告があったことが明らかになり、調査漏れ人口234万人を控除した後もまだ586万人の過大報告数値があった。1962〜64年の3年間に総人口の減少数値は自然増加数値よりも1,351万人少ないというのはまさにこの人数値のことを指している。人口センサス後、1959年以来の過大報告数値を削除して、65年の総人口増加数値を自然増加数値と完全に一致させた( 差はたったの13万人 )。

      … p1523

        第三回人口センサスで各地の過大報告人口数値820万人が明らかになった。過大報告の原因は、一部の農村社隊や集団経済単位、甚だしきに至っては県においてさえも、「小集団」内での物資の分配を多く得るためであった。

      … p1527

        1986〜93年の全国人口数値の比較検討(表1)から分かるように、統計局の数値は毎年、公安部の数値と比べて1〜2万人多い。統計局は82年より毎年50〜170万人のサンプル調査を行い、出生率と死亡率を得て、全国の人口数値を推計している。サンプル調査ではあるが誤差率と人口発展率などの状況分析からその調査と推計は信頼性のあるもので、中国の実状にマッチしている。… 公安部統計は戸籍登記簿による実際統計だが、超過出産や隠匿者など漏れが多い。よって、総人口数値は統計局よりも少ないのは不思議な事ではない。また、その差数値はたったの1〜2%なので、98〜99%の数値は依然として使用でき、人口発展の趨勢を分析するのにさほどの影響はない。… ただし、統計局の数値はただ全国総数値があるのみで省以下の行政単位に分解できない。公安部のは基層から、村、郷、県、省なで具体的数値がある。これが長期にわたって両統計が並存してきた主要因である。

        … 80年代に入って、中国の人口統計は多くの部署が管理。センサスは統計局の主管、戸籍統計は公安部が独占管理、計画生育統計は計画生育部門が管理。これらのいくつかの統計数値は時として大いに差異あり。

        ◎三年経済困難時期の人口数値について:

     

    ●丁抒著、森幹夫訳、加々美光行解説『 人禍 〜餓死者2千万人の狂気〜( 1958〜1962 )』学陽書房、1991年。

      …… 同氏による82年センサスからの推計、59−61年の3年間の餓死者は… 単純計算で、人口増加がゼロであったとしても59年の6.72億人から61年の6.59億人を引いて、その差1300万人が不自然死したことになる。また、大災害前の57年の死亡率1%をほぼ正常なものとして59−61年の正常死亡数値を推計すると約2000万人になるが、実際の死亡数値は3600万人であり、差額の1600万人が通常より多く死んだことになる。あるいは、58年の人口増加率1.7%をそのまま延長すると61年の人口は6.9億人となっていたはずなので、実際との差である約3500万人が死者数値となる。… こうした数値をより正確なものにするためには低栄養等による幼児・高齢者の病死率、栄養失調による受胎率の低下による出産数値の低下等、未発表の諸データが必要。… ここでは餓死者数値を最低1300万人、最高3500万人とし、2000万人という数値を一応の目安としておきたい。…………ベイジル・アシュトンなどの詳細な推計によれば、58年年央から62年年央までの4年間に2946万人が通常より多く死亡 = 超過死亡 Excess Death したとされ、59年から61年の超過死亡は2055万人となっている( Basil Ashton, Kenneth Hill, Alan Piazza & Robin Zeit “Famine in China, 1958−61” Population Council “Population and Development Review ” Vol..10 No.4 1984 )…( 若林敬子「 中国人口統計研究のプロローグ − 人口センサス結果等新データの紹介 − 」厚生省人口問題研究所『 人口問題研究 』第170号、1984年4月号、p33−50 )……( 辻康吾編『 現代中国の飢餓と貧困 』H2 )

      餓死者を1600万人から2000万人と推定( 丁抒『 人禍 』)

     

    ●その他の参考数値:

      1600−2700万人 … Roderick MacFarquhar and John K.Fairbank 著『 検証 : 中華人民共和国史 中国革命内部的革命 1966−1982 』中国社会科学出版社、1992

      最低4000万人 … 金輝「“三年自然災害”備忘録 」『 社会 』1993年 4-5期合刊、創刊100周年特集

      4300−4600万人 … Steven W. Mosher 原著/ 湯本訳『 劫 − 一個中国婦女的自白 』( 台北 )中華書局、93年