北朝鮮農業の実態分析

1960−70年代の非数量データを中心に

 

 

木村 光彦

神戸大学大学院国際協力研究科

 

 

 

本稿の作成にあたり松下国際財団、平和中島財団、文部省化学研究費の財政援助を受けた。また岡村 誠氏( 神戸外国語大学 )との討論が有益であった。これらの方々に深謝する。

 

本稿は未定稿であるので、引用にあたっては筆者の許可を得られたい。

 

 

      1.

      2.農村技術革命−機械化、化学化政策

      3.実  態

      4.農業の位置

      5.結  び

       

      統 計 資 料

        表1 トラクター生産台数:北朝鮮政府統計

        表2 化学肥料生産量、施肥量:北朝鮮政府統計

        表3 北朝鮮、韓国、日本における各種化学肥料施肥量、1979/80年:FAO

        表4 『労働新聞』にみる農作業および関連作業、1966-67年

          A.1-3月 ・ B.4-6月 ・ C.7-9月 ・ D.10-12月

        表5 『労働新聞』にみる農作業および関連作業、1976年

          A.1-3月 ・ B.4-6月 ・ C.7-9月 ・ D.10-12月

        表6 就業者人口比率:北朝鮮政府統計

        表7 北朝鮮の穀物生産と耕地面積:戦前・戦後

        表8 穀物貿易、1963-90年

        図1 産業規模と中央・地方の担当(責任)範囲:概念図

     

     

     

    要  約

    1960−70年代、金日成政権は、農業の機械化、化学化政策を推進した。しかしその政策は失敗した。1980年代になっても北朝鮮の農業は人力、在来肥料への依存から脱却できなかった。同政権は同時に、工業化にも失敗した。近年の農業崩壊は、60−70年代におけるこうした政策の失敗に根源をもつ。

     

     



     


     1.序

     

    本稿の目的は、1960−70年代を中心に北朝鮮農業の実態を調査し、北朝鮮経済における農業の位置について考察することである。北朝鮮では60年以降、機械化、化学化、水利化、電化が推進され、農業の発展が図られた。それは比較的順調にすすみ、成果をあげたといわれる。果たして実態はどうであったのか。この点を探ることは、1990年代に入り、飢餓状態まで招いた農業崩壊の原因を精査するために不可欠な作業である。同時に、北朝鮮政治経済体制の理論的分析をすすめるうえで、大きな意義をもつ。

    今日まで、北朝鮮の農業あるいはそれを含む経済全般についての論考は、相当数発表されてきた。 しかしその中には、実証的分析を欠いた空論に近いものが少なくなかった。他方、集計的数量データの収集とその解析に努力を傾注した研究もある。それはしばしば、一見精密ではあるが現実離れした分析に陥った。得られる統計が量的に乏しいのみならず、その信頼性に大きな問題があったからである。実は北朝鮮農業に関しては、少なからぬ量の非数量的情報が存在する。それは、きわめて有益であるにもかかわらず、従来の北朝鮮研究において軽視ないし無視されてきた。 本稿は、北朝鮮側の文献( 主に『 労働新聞 』)を詳細に点検し、その中から農業の実態を示す情報を体系的に収集、整理する。とくに機械化、化学化について調べる。つづいてこれを基礎に北朝鮮農業の位置づけを行い、さらに金日成体制の特異な性格について論じる。