ネットワークでの情報提供について

安 田  聖


1.はじめに

 「アジア長期経済統計データベースプロジェクト」では、本プロジェクトを遂行する上で収集される資料や推計結果を広く国内外に提供する為の設備として、昨年度ワークステーションを購入するための予算が認められ、本年2月に日立製作所製のワークステーション H9000 VR100(HP9000-809)が導入された。このワークステーションは、約100Gバイトのディスクを備えており、本プロジェクトで収集される資料や各種のデータ、そして推計結果や推計過程で作成されるデータを数値データとしてだけではなく、論文等も本プロジェクトに参加しているメンバーのみならず、広く国内外の研究者に提供する予定である。

2.データの提供方法の現状

 電子計算機を使用してデータを提供する場合、伝統的な方法は、データベースシステムを利用してデータを提供する方法である。これは、目的とする情報のキーワードを、データベースシステムに渡すことにより、目的とする情報を端末等に表示する方法である。例えば、本プロジェクトのような場合、目的とする国、系列名、期間等を指定するれば、目的とする時系列データが端末に表示されるというようなシステムを、考えることができる。この例として、日本経済統計情報センターのLTESがある。

 経済分析に使用するデータの場合、ある条件で検索された結果の表示だけで、分析が行えることは非常にまれである。通常は、検索した結果を分析システムに取り込み、試行錯誤を繰り返しながら、その都度、必要なデータを追加しながら分析することが行われる。このため、必要に応じて、データを分析システムに渡せることが、今までの提供システムでは不可欠な条件であった。一部の分析システムでは、検索結果の表示を再入力することなく、直接取り込めるようにしたものも考案されてきている。

 しかし、近年のパーソナルコンピュータの進歩は、演算の処理能力だけでなく記憶装置や外部記憶装置の大容量化をもたらしており、試行錯誤を伴った分析に必要な全てのデータを、持つことができるところまできている。つまり、適当なデータベース機能を持った分析システムがあれば、パーソナルコンピュータだけで十分分析が行えるところまできていることになる。このようなシステムを前提として場合、データ提供の方法も今までの方法とは自ずと異なったものとなる。つまり必要に応じてデータを提供するのでなく、必要と思われる全てのデータを、分析に先駆けてパーソナルコンピュータ側に転送しておき、その後、分析システムが持っているデータベース機能を利用して分析をする方法である。このような分析システムの場合、パーソナルコンピュータとデータ提供システムの間では、ただ単に分析に必要なデータを転送できればよいことになる。

 本プロジェクトのような場合、国単位の時系列データの集まりのファイルを作成し、これらをファイルの提供システム上に置くことにより、分析者は目的とする国のファイルを、分析に先駆けてパーソナルコンピュータにコピーする事により、以後の分析はデータ提供システムの手助けを借りずに分析が可能となるシステムである。また、多国間の比較や他国のデータが必要な分析を行う場合は、必要な国の全てのファイルを前もって転送することによって、一国の分析と同様に分析可能である。

 このようなファイルの転送機能は、現時点ではワークステーションとインターネットが最も得意とする分野である。

3.インターネットによる情報の提供

 インターネットの発達により、最近では情報(データを含む)の提供方法もデータベースによる方法から、

に移りつつある。これらの方法は、ファイルの転送機能を利用したものに他ならない。つまり、インターネット上では、ファイルの転送が行われるだけで、転送されてきたファイルの形態により、動画であれば動画を表示するプログラムが、音声であれば音声を再生するプログラムが、手動もしくは自動的に動き、目的とする情報が端末側で得られる方法である。これらのデータの提供方法は、今までのデータベースシステムによる方法とは異なり、提供する情報を数値データだけに限定せず、動画や音声のような情報までありとあらゆる情報をデジタル化したファイルの形で提供しようというものである。

 本プロジェクトとの関係で言えば、推計された数値だけでなく、手書きの資料や数値、コンピュータにテキストの形で入力する事が困難ではあるが、各種の推計には不可欠な資料のような場合、これらをそのままのイメージで記憶させ、利用者に提供することも可能な方法である。

 以下、上記した3種類の方法の特徴を、見てみることにする。

anonymous ftp

 その名前が示すとおり匿名ftp(file transfer protocol)と呼ばれ、特定の ID を取得することなく目的とする情報(ファイル)があるファイルサーバー(ワークステーション)に接続し、データを利用者が使用しているワークステーションやパーソナルコンピュータに転送することが可能な方法である。つまり、利用者 ID を必要としない、ファイル転送システムである。このための ID として、インターネット上では、anonymous もしくは guest という ID が用いられている。この ID で目的とするワークステーションに接続できれば、パスワードは必要なく(一般には、利用者のメールアドレスを入力するように要求される。)、公開を前提として置かれているプログラムやデータのある場所に、自由にアクセスする事が可能である。もし、接続したワークステーション上に、目的とするデータがあれば、自由に各自のワークステーションやパーソナルコンピュータに転送することができる方法である。

 この anonymous ftp を利用するには、端末側に ftp のプログラム、もしくは ftp の機能がサポートされたプログラムが、用意されている必要がある。

 この方法の欠点は、目的とする情報があるワークステーションの名前と、そのファイルの名前が利用に際して分かっている必要があることである。

gopher

 先の anonymous ftp では、目的とするファイルの名前が分からなければ、どのファイルが必要なのか知る手段はない。このため提供者側でインデックス・ファイルを作成して、同じ場所に置くことが一般的に行われている。このファイルをまず最初に入手し、その内容を見てから必要なファイルを入手する事になる。このような手順をメニュー方式で提供するシステムがgopherと呼ばれる方法である。

 この方法を利用するには、端末側に gopher のプログラム、もしくは gopher の機能がサポートされたプログラムが、用意されている必要がある。  このシステムでは、一部のプログラムには動画や音声等のマルチメディア機能を兼ね備えたものもあるが、一般には、目的とする情報のファイルが転送されてくるだけで、以後の処理は、各自で行うことになる。

World Wide Web (WWW)

 上記した方法の欠点を補い、そして各種の情報を自由に表示できるようにしたものである。この WWW の表示システム(通称ブラウザー)には、上記した anonymous ftp や gopher の機能も兼ね備えており、この表示システムがあれば、自由にインターネット上の各種情報を入手し、情報を得ることができる。この表示システムの代表的なものに NCSA の mosaic 、 netscape 社の netscape 、そして Microsoft 社の Internet Explorer などがある。これらのシステムは、ワークステーション用だけでなく、windows3.1 や windows95、 そして Mac 用のシステムも提供されており、各自の使用機器にあわせて導入可能である。

 この方法が、現時点ではインターネットで各種の情報を提供する場合の標準になりつつある。また、新しい機能が、今でも追加され標準化の手続きがなされている。

 このような現状から、本プロジェクトでも積極的にプロジェクトの遂行過程で得られる各種情報を、WWW を利用して提供していく予定である。

 以下に、試験中の当プロジェクトの WWW の例を示す。なお、当プロジェクトの WWW の URL (アドレス)は、

   http://www.ier.hit-u.ac.jp 

です。netscape 等のブラウザーから、上記 URL を指定しますと、図1 のような画面が表示されます。画面右側のスクロールバーを移動させると、アンダーラインが引かれた文字列を見ることができます。この文字列をマウスでクリックすると、その内容を見ることができます。場合によっては、さらにアンダーラインの文字列があることもあります。図2にこのようにして表示した、邦文のニュースレターのNo.1の一部を示します。

 今後この WWW を拡張し、ディスカッション・ペーパー等も提供できるようにする予定である。

4.分析用データの提供

 近年のパーソナルコンピュータの処理能力や記憶容量は、80年代の大型汎用コンピュータを凌ぐまでになってきている。このため、データベース・システムは第2節でも述べたように、端末側で行える処理は端末側で行う方式に移行してきている。つまり、クライアント・サーバー型のデータベース・システムである。これは、データ提供側(サーバー側)は、要求された情報に対して加工や分析を加えることなく、そのまま端末側(クライアント側)に渡し、端末側で加工や分析を行う方法である。

 このような環境の変化に対して当プロジェクトでも、データ入力や推計処理の多くはパーソナルコンピュータで行われると考えられ、その分析に必要なデータを必要に応じて蓄積・提供するシステムの構築が急務であると考えられる。つまり、本プロジェクトでは、当研究所に設置されている汎用計算機、今回導入されたワークステーション、そしてこれらの端末として機能するパーソナルコンピュータを物理的な回線(インターネット)で接続し、有機的な情報の流れを確保し、効率的な分析や推計作業を行う環境を構築すことが不可欠である。各々の計算機の関係を図解すると、次のようになる。 図3 各計算機の間の情報の流れ

つまり、大量のデータを処理する必要がある場合は、汎用計算機を用い、その処理結果をパーソナルコンピュータの分析プログラムやグラフ表示プログラムに渡し、その結果の妥当性の検証が行われる。また結果の一部は、ワークステーション上に蓄えられ、他の分析に使用されるだけでなく、国内外の研究者に提供されることになる。

 このような関係が、効率的に機能するためには、各々の計算機の間の連携が密でなければならないことは言うまでもないことである。特にワークステーションのデータ提供機能は、分析に使用されるシステムとの間で、有機的に機能する必要がある。

 このようなパーソナルコンピュータの分析システムの1つとして、今回ワークステーションとの間でクライアント・サーバー型として動く時系列分析ツールとして、オーストリアのグラーツ大学のStefan P. Schleicher教授とWirtschafts- und Sozialwissenschaftliches Rechenzentrum(以下WSRと略す)のTong Li氏の作成になる VisualData 、VisualEconometrics のシステムの提供を受けるとができた。(Windows3.1 もしくは Windows95 が必要である。)なお、このシステムの著作権は、上記の両氏の他に、WIFO(Osterreichishes Institute fur Wirtschaftsforschung)とWSRにもある。本システムは、パーソナルコンピュータ上に持ったローカルデータベースと、ワークステーション上に持ったリモートデータベースを、必要に応じて使い分けるだけでなく、連動して分析も可能なシステムである。なお、本システムへのデータ入出力は、独自の形だけでなく、エクセル等のスプレッドシートの形でも可能である。

    図4 VisualDataのデータ選択画面

     図5 VisualDataのグラフの画面 

5.おわりに

本プロジェクトでは、プロジェクトを遂行する過程で得られる各種情報を、積極的に WWW 等で公開する予定です。またインターネットでは、各方面で情報提供の方法の拡張が続けられており、これらの動向を見ながら当プロジェクトでも必要に応じて拡張を行う予定です。これらの情報についても WWW を利用して、お知らせする予定ですので、定期的に当プロジェクトのWWWを、見ていただくようお願いします。 


(やすだ さとし 一橋大学経済研究所助教授)