コリア・ワークショップ印象記


張  亨壽



 1999年11月26, 27日、私は一橋大学において開催された韓国経済に関するワークショップに報告者として参加した。このワークショップは、「アジア長期統計データベース・プロジェクト」において、アジア各国の経済を対象に開催されている今年度4回目の国際ワークショップの一つである。まず最初に、この場をかりて、このようなワークショップの成功に尽力された方々に心からの感謝したい。また尾高煌之助教授と黄仁相教授には、このすばらしいワークショップに招いていただいたことを感謝したい。

 このワークショップは、一橋大学の古い木造の建物の中で開催された。その内部は優雅で、高校時代の記憶をよみがえらせるものであった。私はプサン高校を卒業したが、この学校はもともと韓国にいた日本人のために、1910年代に建てられたものであった。私が学校に通っていた1970年代後半は、まだ古い二階建ての木造の建物が残っており、そこは新入生のための教室として使われていた。プサンの蒸し暑い日々に、それは冷たい空気をもたらす楽園であったが、この建物はその後取り壊わされ、1980年代中頃に、近代的な体育館に建て替えられた。

 私は外国で開かれるさまざまな学会に出席した経験は少なからずあるが、日本で開催されるワークショップに参加する機会は初めてであった。このワークショップは、日本人、韓国人(元北朝鮮国籍の人も含む)、在日朝鮮人、カナダ人、中国とウズベキスタンの客員教授等、さまざまな国からの参加者によって特徴付けられているが、この参加者の多様性によって、当然ひとつの問題に対する異なる見解が生じ、それは時には建設的な論議に発展したり、また時には討論が白熱した。

 このワークショップは私に、日本統治下の朝鮮に関する経済統計に対して、多くの関心を掻き立ててくれた。多少誇張になるかもしれないが、1945年以前の朝鮮経済に関する知識は、私の高校時代のプサンにある古い木造建物に関する記憶くらいのものである。今回、私はここ東京で別の古い木造の建物にめぐり合った。このワークショップは、高校時代の涼しかった建物の記憶とともに、季節外れの暖かい日にはじまったのであった。

 このワークショップを通じて、まず驚いたことは、コリアに興味を抱く多くの日本人研究者は、コリアのことに非常に精通しているということであった。日本人研究者は、我々が日本を理解する以上に、コリアのことをよく知っているように思える。また私は、この問題に関する日本人研究者の知的関心が大変幅広いものであることも驚きであった。なぜなら私は、コリア経済というテーマは単純に我々の問題であると考えていたからである。

 朝鮮半島が、過去の一時期、日本国の一部であったことについては以前から認識していたので、日本人の研究者たちが、自分たちの歴史の一部に関心をもつのは驚くに値しないだろう。このような見解はさほど重要なことでないように見えるが、しかしコリア経済に関するワークショップについて私の印象を記すにあたっては、大きな意味合いをもつことになる。率直にいうと、コリアの過去に関する私の理解はまだそれほど深いものではないが、あえていうならば、多くのコリアの経済学者はこのようなことを認識していないであろう。

 いうまでもなく、コリアもしくは日本は「自国の歴史」に関して、それぞれの国で研究を行うことができるであろうし、またどのような結論をも持ちうるであろう。しかし、両国の経済学者が共通の問題に関して意見をいう場合の最も重要な原則は、客観性をもつことであるということを私は主張しておきたい。なぜならワークショップで扱われるテーマは、偏見に基づいた不適切な判断を避け、公平な方法で取り扱われるべき問題だからである。この原則に忠実な方法の一つが、プロジェクト本来の目的である統計に関する研究を行うことである。

 そのような意味から、今回のワークショップの主旨は私の考え方に合致していたのであるが、各セッションにおいて持ち上がった議論のほとんどは、私に言われせれば、上記の原則を十分に認識していないことによるものであった。討論では洞察に満ちた多くの興味深い考えも含まれていたが、本来のワークショップの目的からは的外れに思えることが多かった。

 コリアと日本の間における研究者間の共同研究の将来には、たしかに明るい見通しもある。1910年以降現在までのコリアのデータベースを作成することは、2国の研究者、厳密にいえば北朝鮮も含めた3国の研究者が、同じテーマについて研究を行い、定期的にお互いのデータの分析を持ちより、その結果を照合比較し、また食い違いを修正するという作業を継続するならばうまく行くであろう。

 私は経済学者として、ワークショップの運営について若干の否定的見解をいう必要があると思う。ワークショップの第2日めは、最初のセッションにおける激しい議論のために時間がかかり、最終セッションは予定を1時間以上も超えて終了した。ある特定の問題に対して極端に関心をもつ経済学者によって討論が長時間にわたることは、歓迎されるであろう。しかしながら、あまりに的外れの議論は、一般の経済学者にとって学者としての関心すら失わせてしまうことになる。まる2日間長時間にわたり集中的に行われたワークショップの参加者にとって、それはなおさらのことである。これが、このワークショップの運営で感じた唯一の問題点であった。

 最後に、コリアに関する長期データベース作成という研究は、本来なら韓国経済学者によって最初になされるべきであったと、私は強く感じている。私たちがあまりに自国の歴史に無関心であったことを、いまでは残念に思っている。我々は、自国における不愉快な歴史を、あえて明らかにしようとしなかったのか、あるいはたまたまそうであったのかもしれない。今後、我々はより前向きの態度でそれに取り組むべきであると思う。ともかく我々は「ともに」、我々の失われた歴史の一部を研究するという「共通の」目的における最初の第1段階に、偉大な一歩を踏み出したのである。今後は、コリアと日本の研究者の間で、さらなる共同作業と、より生産的な討論、そしてより実りのある協力がなされるであろうことを確信している。

(Hyoungsoo Zang : Research Fellow, Korea Institute for International Economic Policy, Seoul, Korea)

(日本語訳・比佐優子)


International Workshop on Long-term Economic Statistics of Korea

(November 26 - 27, 1999)

Program

November 26 (Friday)

Session1 : Long-term GDP
1 Report Toshiyuki Mizoguchi , "National Accounts of Korea:1915-1990"
Discussant Satoru Okuda
2 Report Hak K. Pyo and Hyeog-Ug Kwon, "The Sources of Economic Growth in Korea: Long-term Perspective"
Discussant Hiroshi Uyama

Session2 : Industry
3 Report Insang Hwang and Hongyul Han,"Industrial Structures of Korean Economy: 1940s-1950s"
Discussant Yukiko Fukagawa

Session3 : Agriculture
4 Report Yong-Sun Lee , "The Agricultural Growth in Postwar Korea"
Discussant Kazuo Kuramochi

Session4 : North Korean Economy
5 Report Hyoungsoo Zang and Myung-Chul Cho, "North Korea's Agricultural Sector: Assessment and Prospects"
Discussant Tetsuo Murooka
6 Report Mitsuhiko Kimura, "The Structure and Characteristics of North Korean Economy"
Discussant Il-Chon Kang
7 Report Yoshiro Matsuda, "On the Accuracy of the Population Census in1993"
Discussant Hoil Mun

November 27 (Saturday)

Session5 : Financial and Monetary Economy
8 Report Yosihisa Godo, "The Monetary and Financial Statistics of Korea: 1940s-1950s"
Discussant Kazuhisa Ito
9 Report Tsutomu Miyakawa , "On the Price Movements in Post War Korean Economy"
Discussant Yukimitsu Sanada

Session6 (11:15-12:30): International Trade
10 Report Insang Hwang and Yangseop Park , "The International Trade Statistics of Korea: 1945-1962"
Discussant Kazuo Hori
11 Report Noriyuki Nojima , "Trade Statistics Database of Korea"
Discussant Kyoji Fukao

Session7 : Comparative Statistical History
12 Report Hyung-gu Lynn, "Manufacturing Statistics and Systems in Colonial Korea"
Discussant Toshiyuki Tamura
13 Report Hak K. Pyo and Sooil Jin , "A Comparative Profile of Human Capital: US, Japan and Korea"
Discussant Sung-Jin Kang

Session8 : Labor
14 Report Hiroyuki Chuma and Jong Hak Weon , "The Korean Labor Market in Transition: An Analysisi of Internal Labor markets"
Discussant Nobuko Yokota: 10min
15 Report Jae-won Sun, "Population Migration and Labor Market in Colonial Period"
Discussant Yong-Gi Kim
16 Report Masahiro Abe and Seung-Yeol, Yee, " Korean Labor Market Statistics"
Discussant Kin, Yong-Gi