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年金用語解説 PENSION GLOSSARY

公的年金をめぐる争点

給付建て・掛金建て

[defined benefit plan/defined contribution plan]
老齢年金給付と年金保険料拠出の結びつきは大別すると2通り。第1の方法はあらかじめ受給する年金給付額を決め、その給付にあわせて後から拠出額を調整する方法であり、「給付建て」の年金とよばれる。第2の方法は、あらかじめ拠出する年金保険料(掛金)を決め、その運用実績(元利合計)に基づいて年金給付を事後的に決める形をとり、「掛金建て」の年金とよばれる。前者を「確定給付型年金」、後者を「確定拠出型年金」とよぶ人もいる。給付建てか掛金建てかの選択は「個々の当事者に年金受給権をどのように与えるか」という問題だ。日本では公的年金だけでなく企業年金の大半も給付建て。

みなし掛金建て

[notional defined contribution]
年金財政は賦課方式で運営する一方、各加入者への受給権付与は掛金建てに基づいて行う方式をみなし掛金建て方式という。加入者が年々拠出する掛け金(保険料)は、そのときどきの年金受給者の年金給付を賄うために用いられ、積立てにはまわされない(賦課方式)。他方、掛け金の拠出額は加入者の年金個人勘定に「みなし運用利回り」付きで記録される。そして過去の掛金拠出総額(みなし運用利回り込み)に基づき年金受給開始時点で年々の給付額を決める(掛金建て)、というのだ。みなし運用利回りは賃金上昇率等を参考にして決められる。掛金建て制度のもとでは拠出と給付は1対1に対応する。拠出した保険料は給付の形で必ず返ってくる。若者の年金離れをくいとめ、年金不信を取り除くという点で掛金建てへの切り替えはきわめて効果的。また「二重の負担」も回避できる。この方式を考案した国にちなんで「スウェーデン方式」とも呼ばれる。

積立方式・賦課方式

[funded financing/pay-as-you-go financing]
給付建ての年金では年金保険料を拠出すると年金受給権が発生する。この受給権の裏側には年金給付の支払い義務(給付債務)がついている。この給付債務に見合うように受給権発生時点から事前に積立金を保有していく財政方式を「積立方式」という。積立方式の場合、原則として年金純債務(給付債務と積立金との差額)は発生しない。これに対して、その時どきの年金給付支払いに必要となる金額を年金保険料等の拠出で賄っていく財政方式を「賦課方式」と呼ぶ。賦課方式の場合、積立金は原則として保有しない。ただし月々の年金給付を円滑に支払うために資金準備として積立金を保有することはよくある。その金額は給付債務全体と比べると、はるかに少ない。従って賦課方式下では常に膨大な金額の年金純債務が生じる。積立方式か賦課方式かの選択は、年金給付を制度全体として賄うための財源調達方法(財政方式)の違い。公的年金は給付建ての年金を賦課方式をベースにして運営。厚生年金基金の代行部分や国民年金基金は給付建ての年金を積立方式で運営。

未積立ての年金債務

給付建ての年金を積立方式で運営する場合、理論上、年金純債務は発生しない。しかし実際は単純な理論的想定とは異なる。積立方式の年金保険料は各種の基礎率(運用利回り・物価上昇率・賃金上昇率・死亡率など)を想定して算出される。現実の積立金利回りが予定利率を下回ったり、予想を超えるインフレや賃金上昇があったり、予想以上に長生き(死亡率が低下)したりすると、年金純債務が発生する。それを未積立の年金債務(または積立不足)という。未積立ての年金債務は企業会計上、貸借対照表に明記しなければならなくなった。その存在は企業の格付けにマイナスに作用するおそれがある。

給付建て年金の長短

給付建ての公的年金を賦課方式で運営すると、制度創設直後から老後の安心につながる年金給付を支給できる。またインフレや賃金増を乗り越える形で老後所得を安定的に保障しうる。ただ、少子化が進行したり低成長経済になったりすると年金財政の安定的維持がしだいに困難になる。年金保険料の引上げは現役組の生活水準を引下げ、企業を人件費負担の重圧で苦しめるおそれがあるからだ。また若者の中には年金保険料を国に払い込むより自分で老後のために貯蓄したほうがましだと考える人が増えてくる。そうすると年金給付が一部削減されたり国庫負担の引上げが行われたりする。

年金制度の空洞化

年金保険料を拠出すべき人や事業主が保険料を拠出しなくなり、保険料収入に穴が空いていくことを「空洞化」と呼ぶ。国民年金は現在、保険料の未納問題で苦しめられている一方、厚生年金も雇用形態の多様化が進むなかで空洞化が深刻になりつつある。

雇用形態から中立的な年金制度

事業主は年金保険料負担を節約するために雇用形態の多様化(パート・派遣・請負契約・季節労働の社員)を積極的に進めている。ただ、このような雇用形態であっても給与所得者は原則として厚生年金に加入すべきだという意見も根強い。彼らが厚生年金に加入するためには、事業所ごとの賃金支払い総額をベースにして事業主負担の年金保険料を徴収する必要がある。なお、この場合、年俸制を採用したりボーナス払いの賃金部分を拡大したりしても、事業主は保険料負担を節約することができなくなる。

年金の完全個人単位化

公的年金の保険料負担や給付算定をすべて個人単位で設計する考え方。この考え方の下では遺族年金の存在は否定される。また、現役時代の賃金格差がそのまま老後に持ちこされる。男女の賃金格差が歴然としており、しかも当分の間、その格差解消がむずかしい場合、女性の多数派が年金の完全個人単位化を支持するかどうか。なお夫婦の間で年金分割を認めれば、個人単位化のメリットを女性は享受することができる。

二重の負担

年金財政を賦課方式から積立方式に切りかえる際に生じる負担。賦課方式の年金では世代間扶養が順送りになされる一方、積立方式の年金は同一世代内部だけで短命に終わる人から長命の人へ所得を再分配する。賦課方式から積立方式へ切り替えると、切り替え時点の青壮年層は両親や祖父母の年金を賦課方式で支えながら、自分の老後は子どもや孫をあてにせず自分の世代だけの年金積立てで備えることになる。特定の世代だけに老後生活資金を二度調達させることは平時では容易ではない。      

年金一元化

制度が分立したままでは産業構造等の変化に適切に対応できない。船員保険や旧3公社の共済組合そして農林年金はすでに厚生年金に統合された。国共済と地共済も制度間財政調整の開始を予定するとともに09年までに保険料率を段階的に一本化する(→「公的年金の加入制度」)。     

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