マクロ経済学教科書案内: 大学院編
     
大学院のマクロ経済学の教育には,学部の教育とは質的に変化があります.

 (1) 数学の使用が頻繁になる(特に動学的最適化の導入).
 (2) 現実問題の説明よりも,できるだけ早く研究の最前線へ学生を導くことが主眼になる.

したがって,学部レベルでマクロが面白いと思っていても,大学院での教育への移行過程で躓く人が多い.それでも,比較的スムーズに学部レベルとPh.D.レベルの間を橋渡ししてくれる本として,

 デビッド・ローマー 『上級マクロ経済学』 (日本評論社)
 斎藤 誠 『新しいマクロ経済学―クラシカルとケインジアンの邂逅』 (有斐閣)

の二冊があります.バランスと言う意味で,教科書として用いるならローマ−ですが,個人的には多少クセは有るが著者の「経済学観」が出ているという意味で,後者の方が面白かったです.ローマ−の原書は、最近第2版が出ました.



 サックス+ラレーン 『マクロエコノミクス』(日本評論社) 類似品に注意!

サックス達の本は,レベルはマンキューに毛が生えた位ですが,とにかく何でも書いてあり,現実の経済問題も意識されているので,マクロを専門にする気は無い,修士専修コースの人などが読むのには,丁度良いのではないでしょうか?



これのさらに上となると,

 Blanchard and Fischer, Lectures on Macroeconomics, MIT Press.
  (ブランチャード+フィッシャー 『マクロ経済学講義』 多賀出版)

が,あります.10年以上前の本だから経済成長論の取り扱いなど,明らかに時代遅れになった部分はありますが,大部分は今でも十分に博士の教科書として通用します.ただし,このレベルの本を読むのに,斜め読みして「ああ,わかった」というのは,あまり意味はありません.ミクロの博士レベルの教科書と違って,そういう読み方もできる本ですが,マクロの研究者を目指すのであれば,むしろ一つ一つの式の展開を全部追いかけていくくらいの気合で読まないと意味がありません.院生であれば一人で読むのではなく,何人かのグループで輪読会をして,互いの理解度をチェックするようにした方がいいと思います.
 以下に挙げる教科書はレベルとしては
ローマーより上であり,どれもBlanchard and Fischerと同じ位か,それ以上にテクニカルです.したがって,Blanchard and Fischerについて述べた但し書きは,そのまま当てはまります.

新しい古典派(new classical)の視点から書かれた教科書
 Robert Lucas, Studies in Business-Cycle Theory, MIT Press.  
 (論文集.Must readを数多く含む)
       
 
Thomas Sargent, Macroeconomic Theory, Second Edition, Academic Press.
 
(ほとんど時系列の教科書と言う説もある)

 Thomas Sargent, Dynamic Macroeconomic Theory, Harvard University Press.
 (マクロ動学モデル一般を取り扱っており,あまり新しい古典派という感じはしない.) 


第2世代のリアル・ビジネスサイクル・モデルの教科書

 Thomas F. Cooley (編集), Frontiers of Business Cycle Research, Princeton University Press. 

 Marimon and Scott (編集), Computational Methods for the Study of Dynamic Economies, Oxford University Press.

 Lars Ljungqvist and Thomas J. Sargent, Recursive Macroeconomic Theory, MIT Press.


  3冊ともマクロ動学モデル一般を取り扱うとともに,コンピューターによるシミュレーションを重視している.
  ケインジアン的な粘着価格モデルも出てきたりするので,第1世代のRBCのイデオロギーとは切り離して考える必要あり.

 Stokey and Lucas with Prescott, Recursive Methods in Economic Dynamics, Harvard University Press.
  動学的マクロの分野の経済数学の教科書・辞書.
                
                          


新しいケインジアンの視点から書かれた教科書
 Mankiw and Romer (編集) New Keynesian Economics, 2vols., MIT Press.  
 (論文集.Must readを数多く含む)
       
 
Coordination Games: Complementarities and Macroeconomics, Cambridge University Press.
 
(個人的には,未来はこっちの方にあると思っているのだが...)


経済成長論

 Barro and Sala-i-Martin, Economic Growth, MIT press.  
 
(新しい成長論以降の,標準的な経済成長論の教科書)
       
 
Aghion and Howitt, Endogenous Growth Theory, MIT Press.

 (これはやっぱりミクロだよ...)