世代間の利害調整に関する研究

研究期間 平成12年度〜16年度
領域代表者 高山憲之(一橋大学経済研究所教授)

世代別利害を理論的計量的に分析し世代間衡平性の原理的考察を踏まえて、利害調整の方法を具体的に提案する

 近年、世代間の適切な利害調整を迫られる問題が日本だけでなく地球的規模において続出している。第1に、地球温暖化の問題は現在の経済活動だけでなく過去の長期間にわたる経済活動とも密接に関連する一方、温暖化ガスの影響を主に受けるのは数十年先の遠い将来に生存する世代である。そこでは加害者と被害者が同時点には存在しておらず、起因者負担原則を適用しようとしても過去の世代に適切な負担を求めることはできない。また加害者と被害者の直接交渉で問題を解決することも事実上不可能である。第2に、人口構造の高齢化問題は日本をはじめとする先進工業国では21世紀前半における最大の懸案となりつつある。公的制度としての年金や医療・介護は所得の世代間再分配を基本線としているからである。第3に、日独伊などでは低い出生率に苦悩する一方、外国人労働者の受けいれにあたって従来より深い知恵が求められている。第4に、発展途上国でも経済発展と世代間分配の公平性を両立させることは容易ではない。伝統的産業は主として低所得の中高年世代によって担われる一方、所得の高い新規産業分野には若年世代が大量に投入されがちだからである。第5に、旧社会主義国が市場経済へ移行した際、既存の社会保障制度が崩壊し従来の負担が無に帰して社会保障給付は受けられなくなった。その結果、とくに高齢者が市場経済化に強い不満をもつことになった。その中で、いったん無に帰した社会保障負担を若者に再びどう受けいれさせるかが問題となっている。

 上述のような現実を踏まえて、本領域では次の6つを研究目的としている。第1に、地球温暖化問題をめぐる世代間の衡平性をどのように考えたらよいのか、それを経済学と倫理学の立場から原理的に考察し、その考察に基づいた負担原則を新たに提言する。第2に、先進工業国における年金・医療・介護の問題をめぐって世代間の利害が今後どうなるかを経済理論的・計量的に明らかにし、その利害を適切に調整する方法を具体的に提案する。第3に、少子化の進行が世代間の利害にどのように影響をするかを経済学の立場から理論的・計量的に明らかにする一方、外国人労働者を日本にどのように受けいれるべきかについても諸外国の経験に学びながら具体的に提案する。第4に、日本とアジアを念頭におきながら経済発展における世代間の利害調整のあり方を理論・実証の両面から究明する。第5に、市場経済への移行国における社会経済統計を収集して客観的な世代間利害の構造を解明し、移行国における世代間利害調整の経済政策的含意を吟味する。第6に、世代間利害調整において日本の政治がいかなる問題を抱えているかを具体的に明らかにし、また円滑な世代間利害調整を行うために政治がいかに変わらなければならないかを示す。

 研究にあたってミクロデータを縦横に駆使し、また複数の意識調査を実施する。


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