研究計画概要

研究トピックの題名

「企業のライフコース」からみた産業クラスターの形成要因
―企業間ネットワークの構築とオフィス移転を手掛かりにして―

論文執筆予定者

  氏名 所属
研究代表者 清水千弘 麗澤大学
研究分担者 唐渡広志 富山大学
佐藤英人 帝京大学
渡辺努 一橋大学

作業担当予定者

  氏名 所属
研究代表者 清水千弘 麗澤大学
研究分担者 唐渡広志 富山大学
佐藤英人 帝京大学
渡辺努 一橋大学

計画概要

本研究の目的は,大きく二つに分類される。第一は,産業クラスターの形成要因を「企業のライフコース」から明らかにすることである。産業クラスターの形成要因に関する研究は,マイケル・ポーターのダイアモンドモデル1)をはじめ,多数の研究蓄積が存在する。なかでも,企業間の接触行動が,産業クラスターの形成に強く寄与しているという指摘があり,B to B contactなどで高度な意思決定を行う場合や,複雑かつ非定型な業務については,電子メールやインターネット等の新しい情報技術(ICT:Information Communication Technology)が広く普及してもなお,対面接触(Face-to-Face contact)が重要な意味を持つという。つまり,ある特定の地域に,ある特定の業種業態が集積する産業クラスターには,取引企業間の空間的な近接性が極めて重要であり,この近接性から構築される企業間ネットワークが,イノベーションを喚起する原動力になると考えられている2)。このようなことは,都市経済学では,企業立地のモデルとしても発展してきている。

確かに産業クラスターの形成と企業間の接触行動には,強い関連性があるということは,既存研究から明らかであるが,産業クラスターの形成要因については,依然として不明な点が多い。特に,産業クラスターを形成している個々の企業が,いつ,どこから,どのようにして,ある一定の地域に集積するのか。また,どの程度の地理的な範囲内・頻度で,企業間接触が行われて,企業間ネットワークの紐帯をより強固にしていくのかといった,企業のライフコース(起業から現在に至るまでの,企業の成長(あるいは衰退)過程)とオフィス移転,企業間ネットワークとの関係から検討した研究は,管見の限り見られない。

以上のように,動的な視点から分析することによって,産業クラスターの形成過程を詳細にトレースすることが可能となり,どのような業種業態が,どの地域に産業クラスターを形成していくのか,ある一定の予測が可能となる。ここでの特色は,企業内での事業所ネットワークと,他の企業とのネットワークとの複合的な効果を見ることである。また,ある特定の企業にとっては,企業の事業所をどのように配置するのかによって,その生産性に対して大きな格差が発生することが予想される。また,当該不動産を所有するのか,賃借するのかによっても,企業価値に対して甚大な影響を及ぼす。その意味で,企業の立地戦略と不動産戦略は極めて密接な関係を持つことから,近年においては,企業不動産戦略(CRE: Corporate Real Estate )として注目されてきている。

なかでも,企業が保有する不動産の価値の変動は,企業の価値に対しても影響をもたらす。企業の価値とは,マクロ経済的には,株式市場が評価する企業の株価総額に対して,債務総額を足し合わせることで,計算される。これは,企業が解散することで所有者がすべて入れ替わるとしたときに,そのときの株主と債権者が受け取ることのできる金額の合計をあらわすものと考えられる。一方,資本の再取得価格とは,現存する資本をすべて買い換えるために必要となる費用の総額のことをいう。その中で,土地・建物といった不動産は,企業の価値の中で大きな比率を占めるにもかかわらず,会計制度上の制約により,取得原価(簿価)としてのみ,公開されてきた。そこで,本研究では,事業所及び「主要な不動産」の配置と概要,および「地価税納税額」を捕捉することで,その企業が保有する不動産の時価を計測することで,真の企業の市場価値の変動をも計測することを目的とする。先行研究においては,多くが集計データを用いた研究であったのに対して,個別企業の財務データから分析することは,清水(1997) 6)を除き,いまだ実施されていないものと予想する。これが,本研究の第二の目的である。このことは,マクロ経済学でいわれるトービンのq (Tobin's q theory)を計算することを意味する。

ここで得られた知見は,学術的な意義はもとより,今後の産業政策,都市政策ならびにマクロ経済政策への応用も大いに期待できる。

企業のライフコースとオフィス移転,企業間ネットワークをリニアに把握するためには,起業から現在に至るまでの「資本金規模,従業員数,売上高,取引企業数等」のデータとともに,企業の成長(もしくは衰退)に応じた「移転経歴」に関するデータが不可欠である。

企業の所有する不動産の時価を計測するためには,「主要な不動産」の住所・規模,および「地価税納税額」のデータが必要である。

しかしながら,これらのデータは一般には公開されていない場合が多く,入手すること自体が極めて困難である。そこで本研究では,帝国データバンクの企業概要データ(COSMOS2)と「本社移転,企業の社史・略歴」,「主要な不動産」,「地価税額」のデータを利用して,「企業のライフコース」からみた産業クラスター形成要因と企業価値の計測に関する分析を実施する。

参考文献

  1. Porter, M., “Competitive Advantage of Nations”, Free Press, 1998, 896p
  2. Graham, S. and Morvin, S., “Telecommunication and the City: Electronic Spaces, Urban Place”, Routledge, 1996, 456p
  3. Fujita,M and H.Ogawa(1982), “Multiple Equiribrium and Structural Transition of Non-monocentric Urban Configurations”, Regional Science and Urban Economics,Vol.12,PP161-196.
  4. 清水千弘(2008)「企業不動産戦略の経済学的意義-外部性への配慮と企業の責任-」季刊不動産研究,第50巻,第2号,pp.14-23.
  5. 清水千弘・高巌 編著(2009)『企業不動産戦略-金融危機と株主市場主義を超えて』麗澤大学出版会
  6. 清水千弘(1997),「地価バブルが企業財務指標に与えた影響に関する統計的検証」日本不動産学会秋期全国大会梗概集(1997)

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