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一橋大学経済研究所
186-8603 東京都国立市中2-1
Tel 042 580 8312
Fax 042 580 8333
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| Vol.59, No.3 2008 |
『高齢者の就業構造と消費・貯蓄構造――『全国消費実態調査』のマイクロデータによる分析――』
中村二朗・赤羽 亮(日本大学大学院総合科学研究科・日本大学大学院総合科学研究科大学院生)

本稿では『全国消費実態調査』(総務省)の個票を用いて,バブル崩壊後の高齢者世帯の所得,消費,資産の格差の動向を確認するとともに,高齢者の就業構造と消費構造との関係を整理した.また『全国消費実態調査』を利用する上で従来ほとんど指摘されてこなかった問題(公的年金給付による月次平均所得のバイアス)及びその改善策も示した.高齢者を含む世帯類型は多様であり全ての世帯を一律に扱うことは困難であるため,主に高齢者夫婦2人世帯を対象に分析した.消費支出の動向は相対的に安定的である一方,就業条件の悪化などにより勤労所得が低下したため,資産を切り崩して生計を補う世帯が増加していることが確認された.さらに,非勤労所得が多い世帯は労働市場から退出して現役時代に蓄積した資産を切り崩して生活している一方で,非勤労所得が少ない世帯は高齢期にも就業を続けることにより生計を維持しつつ,貯蓄を増加させていることが示唆された.
JEL Classification Codes: J14, E21, D31

『世帯の経済資源が出産・育児期における女性の心理的健康に与える影響について――「消費生活に関するパネル調査」を用いた実証分析――』
野口晴子(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)

本研究の目的は,「消費生活に関するパネル調査」(財団法人家計経済研究所)を用いて,世帯資産と所得を中心とした社会経済的状況が出産・育児期における女性の心理的健康に与える影響について実証的分析を行うことにある.
動学同時決定パネル推定の結果,@世帯資産の変化率および世帯資産は,出産・育児期の女性の心理的健康状態に対して有意な影響がない;A年間世帯所得の増加は心理的健康状態を有意に改善するが,効果は非常に小さい;B推定モデルにかかわりなく,退職は女性の心理的健康状態に対してポジティブに,出産はネガティブに作用し,退職と出産の心理的健康尺度に与える効果の大きさは,世帯所得の効果よりもはるかに大きい;C夫の親との同居は妻の心理的健康状態にネガティブに,夫の学歴の高さはポジティブに作用する,という結果を得た.
以上の結果から,比較的若年層の女性の健康に対する効果は世帯の経済資源よりも非経済的要因の方が重要であり,現代社会で多様な役割を担っている女性にとって,就学前児童を抱えながらの就業継続が最も大きな心理的負担となっていることがわかった.
JEL Classification Codes: I00, I10, I119
『パネルデータにおける家計消費の変動要因――測定誤差とデータ集計期間に関する一考察――』
阿部修人・稲倉典子(一橋大学経済研究所・日本経済研究センター)

標準的な家計消費モデルに従うと,家計消費は所得に比べてスムーズに変化し,その動きはランダムウォークに近くなる.しかしながら,各国のパネルデータに記録されている家計消費変化率の分散は所得変化率の分散よりも大きく,ランダムウォークよりもi.i.d.に近い挙動を示している.本論文では,消費データの不安定性が測定誤差によるものなのか,それとも調査期間が短いためであるかを検証した.分析の結果,測定誤差よりはむしろ,消費支出調査期間の短さが消費変動の主要因であるという結論を得た.Needs-Scan/Panelを用いた食料消費支出の分析では,家計消費がランダムウォークに近くなるのは四半期以上の長期間の集計期間を用いた場合であり,またその場合でも,長期保存可能な食料品への支出はランダムウォークよりもi.i.d.に近い挙動を示した.これは通常の一週間や一カ月の情報に基づく家計消費データでは,消費支出の平滑化やランダムウォーク性の検証を行うことが困難であることを示唆するものである.
JEL Classification Codes: D12, E21, C81
『雇用変動指標の再検討
――1991〜2005年『雇用動向調査』をもとに――』
神林 龍(一橋大学経済研究所)

本稿では,厚生労働省『雇用動向調査』の1991年から2005年までの個票を用い,従来の雇用創出・消失の推計に離職者の離職理由の情報を加え,1990年年代の雇用変動指標を再検討した.その結果,いくつかの観察結果が明らかになった.第一に,既存研究の推計方法は事業所間の共通ショックの影響を強く検出する性質があることがわかった.ただし,この要因を考慮しても,1990年代の雇用フローは個々の事業所に固有の要因に強く支配される傾向があるという従来の指摘はおおむね妥当する.第二に,1990年代の雇用創出は好不況に関わらず安定的に推移しており,雇用変動の大部分は雇用消失の増減から生じていることがわかった.当初は大きく異なるとされたアメリカ合衆国と日本の雇用フローの推移が似通っていることを示している.第三に,都道府県間でも雇用フローの推移は大きく異なることがわかった.この違いを説明するには,マクロショックの地域間分配によるものではなく,最低賃金制度に代表される個々の都道府県固有の要素,あるいは個々の事業所に固有の要因が重要であることが示唆される.
JEL Classification Codes: J64, E32, C81
『ランクサイズ回帰の検定について』
小西葉子・西山慶彦(独立行政法人経済産業研究所・京都大学経済研究所)

多くの実証研究では都市サイズ,企業の資産や売上高の規模などの研究対象がパレート性を持つことを,ランクサイズ回帰で観察してきた.具体的には,順位の対数値をその規模の対数値に回帰することにより,その係数が-1になるかを調べる.また,パレート性の有無には,二次項の係数が0であることも条件になるので,本稿では,二次項を加えたものを回帰モデルとする.パレート性の検証には,一次項,二次項それぞれのt検定と,一次項の係数が-1,二次項の係数が0という複合仮説が成立しているかをF検定で調べる方法がある.しかし,分析対象がパレート分布に従う時,データ数が大きくなると,t値は発散してしまうため通常のt検定を行えないことがわかっており,F検定でも同様の問題が観察された.そこで本稿では,F値の棄却域をシミュレーションによって構成し,ランクサイズ回帰の複合仮説を検証可能とし,パレート性の検定の新たな手法として提案した.
JEL Classification Codes: C12, C16, R12

『現物賃金と経済発展――途上国農村家計の労働供給と食糧確保に焦点を当てて――』
黒崎 卓(一橋大学経済研究所)

途上国の経済発展における雇用形態の多様性とその機能について,現物賃金が果たす家計の食糧確保という役割に焦点を当てて分析する.まず,経済発展の初期段階において現物賃金が重要であることを様々な資料や統計データから示した上で,既存研究が現物賃金をどのように理論的に理解してきたかを展望する.既存研究で十分議論されていない視点として,食糧市場が薄く,主食価格が変動するリスクに直面する労働者家計に対して,現物賃金が食糧面での安全保障を確保する効果を持つという理論モデルを提示する.この理論モデルからは,家計の食糧需要が硬直的である場合に現物賃金を伴う雇用形態への労働供給が増えることが導出される.ミャンマー農村部のデータを用いたミクロ計量分析結果は,この理論的関係と整合的であった.
JEL Classification Codes: J33, Q12, O12

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| Vol.59, No.4 2008 |
『賃金・雇用調整と価格決定方法』
有賀健・神林龍(京都大学経済研究所・一橋大学経済研究所)

マクロ経済学では,物価水準の変動との関連で進められた価格形成行動に関する研究の結果,価格形成行動は労働投入の調整と不可分であることがわかってきた.しかし伝統的な労働経済学では,いうなればWage Takerの仮定のもと,両者の関連について明示的に議論されてこなかった.われわれは,経済産業研究所の協力のもと,欧州中央銀行が行った調査と比較可能な形で,雇用・労働時間調整,賃金調整,製品価格形成行動の三つの論点を同時に観察する企業調査を実施した.本稿はその結果報告である.まず賃金調整について日本調査とドイツ調査を比較した.さらに,日本における賃金調整と雇用調整の関係を整理した.最後に,価格形成行動と賃金調整,雇用調整との関連を考察した.その結果,(1)賃金調整を妨げる要因として最重要視されるのは日独共通で労働者のモラルダウンであること,(2)賃金調整を経ずに雇用調整のみを実施した企業は競争的な労働市場に直面していること,(3)共通製品市場が競争的なほど賃金調整よりも雇用調整が多用されることなどがわかった.
JEL Classification Codes: J31, L11, E31

『企業の出荷価格の粘着性――アンケート調査とPOSデータに基づく分析――』
阿部修人・外木暁幸・渡辺努(一橋大学経済研究所・一橋大学大学院経済学研究科大学院生・一橋大学経済研究所)

本稿ではわが国の食品・日用雑貨を生産・出荷する企業123社を対象として価格設定行動に関する
アンケート調査を行い以下のファインディングを得た.第1に,約9割の企業は原価や需要が変化し
ても直ちには出荷価格を変更しないという行動をとっており,その意味で価格は粘着的である.その
理由としては,原価や需要の情報収集・加工に要する費用や戦略的補完性を挙げる企業の割合がそれ
ぞれ約3割であり,粘着性の主因である.一方,メニューコストなど価格変更の物理的費用は重要で
ない.第2に,価格の変更頻度については、過去10年間では出荷価格を一度も変更したことのない企業
が3割を超えており強い粘着性が存在する.この粘着性は他国と比較しても高い.第3に,アンケー
トの回答とPOSデータをマッチングさせることにより,メーカー出荷価格変更時における末端価格
の変更頻度を大きく上回っている.これらの結果は,末端価格の変動の大部分がメーカー企業ではなく
流通企業の行動を反映していることを示唆している.
JEL Classification Codes: E30
『オンライン市場における価格変動の統計的分析』
水野貴之・渡辺努(一橋大学経済研究所・一橋大学経済研究所)

本稿では価格比較サイト「価格.com」において仮想店舗が提示する価格と,それに対する消費者のクリック行動を秒単位で記録した新しいデータセットを用いて,店舗の価格設定行動と消費者の購買行動を分析した.本稿の主要なファインディングは以下のとおりである.第1に,店舗の価格順位(その店舗の価格がその時点において何番目に安いか)が1位でない場合でもクリックが発生する確率はゼロではない.ただし,価格順位が下がるとクリック確率は下がり,価格順位とクリック確率(の対数値)の間には線形に近い関係が存在する.この線形の関係は,消費者に店舗の好みがあり,消費者が自分の好みで店舗群の中で最も安い価格を提示する店舗を選択していることを示唆している.第2に,各店舗が提示する価格の平均値は,ドリフト付きのランダムウォークに従っている.これは価格変動の大部分が店舗が保有する在庫のランダムな増減によって引き起こされていることを示している.ただし,価格が急落する局面などではランダムウォークからの乖離がみられ,各店舗の価格づけの戦略的補完性が値崩れを招いている可能性を示唆している.
JEL Classification Codes: E30, L11, L81, L86
『出生行動における若年者の労働市場と公共政策の役割――市町村パネルデータによる計量分析――』
小椋正立・角田 保(法政大学エイジング総合研究所,法政大学経済学部・大東文化大学経済学部)

本論文では合計特殊出生率の代理変数として,重みつき出生率Indexを人口動態統計と国勢調査から作成した.そしてこの重みつき出生率を従属変数として出生率の推計を行った.推計結果としてはまず,2000年以降徐々に子供への選好が弱まってきているということがいえる.そしてこの2000年から2005年の間の出生率の低下は,女性の労働市場への進出と,若年男性の労働市場の不安定性という労働市場の要因から来ているものである.また,市町村レベルデータを用いたことによって,サンプルサイズ・正確性の点でより優位であると考えられる.
JEL Classification Codes: J13, J18
『内部労働市場下位層としての非正規』
玄田有史 (東京大学社会科学研究所)

本稿は配偶者を持たない非正規就業3千名以上の独自調査から,非正規の内部労働市場化仮説を検証した.従来の二重労働市場論によれば,非正規就業は外部労働市場に属し,仕事上の学習機会は乏しく,処遇も経験や個人の能力とは無関係に一律と理解されてきた.しかし分析からは,非正規就業にも職場における継続就業年数と年収に正の連関があり,過去の正社員経験も評価されている証左が得られた.それらは企業内訓練を通じて経験に応じた収入が支払われる年功的処遇もしくは能力に応じた選抜的処遇が行われている事実を意味し,むしろ内部労働市場の下位層と合致する.加えて職場に相談相手がいたり,終業後に飲食を共にする等,正規雇用者と親密な交流がある程,非正規処遇は改善される傾向も見られた.以上から,短期転職を繰り返す非正規への集中支援及び正規・非正規間交流環境の整備等,正規・非正規間問題を内包する世代間雇用問題の解決方向性が示唆される.
JEL Classification Codes: J42, J53, J31

『年金記録問題と基礎年金の見直しをめぐって』
高山憲之・三宅啓道(一橋大学経済研究所・一橋大学経済研究所)

日本では年金の記録漏れや給付漏れが最近,大問題となっている.記録漏れや給付漏れの主な原因は、間違いが必ず起こることを前提にした点検と修正のためのバックアップ体制が用意されていなかったことにある.また本人申請に基づく「待ちの行政姿勢」も年金記録問題をいっそう深刻なものにしてしまった.情報サービス提供型の積極行政に切りかえるため、各人の現住所情報を全行政機関が共用する体制をつくったり電子政府を実現したりする必要がある.さらに税と社会保険料の一括徴収は世界の流れであり、日本でも社会保険料徴収業務を社会保険庁から分離し、原則として国税庁に実質移管することが求められている.
基礎年金をどのように改めるのかという問題も現下の日本ではホットイシューである.基礎年金を税方式に切りかえると世代間でみた年金負担は平準化する.企業部門の負担が純減するか否かは仮定の置き方に左右される.財源問題等を考慮すると、基礎年金の2分の1を税方式化することが現実的な選択肢の1つとなるだろう.
JEL Classification Codes: H11, H55, H83

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