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経済研究 第53巻 2002年 要約
Vol.53, No.1 2002
特集 日本の経済制度・経済政策
『日本の対外経済政策 ―国際金融を中心として』
伊藤隆敏(一橋大学経済研究所)

 まず、対外経済政策を、地理的(グローバル、 リージョナル、二国間)・分野別(貿易、マクロ・金融、経済協力)に分類、また国内経済政策とどのように違うかについて、概念整理をしたうえで、いくつかのトピックについて政治経済的な分析をおこなう。第一に、国際機関における日本の影響力について、出資比率、職員比率をとって考察、経済力に見合った影響力を確保できていない、と結論する。第二に、二国間関係で一番重要な日米経済摩擦に歴史を、分析、1990年代に、アメリカからの要求が、日本にとって「良い外圧」から「悪い外圧」に変化したため、摩擦が激化した、と考える。第三に、円の国際化の意義と進展状況について分析する。円の国際通貨としての役割を円建て輸出入比率や為替市場での取引比率、通貨当局の外貨準備に占める比率などで、計測する。目立って円の国際化は進展していないことがわかる

事項分類番号:050, 180
JEL Classifications : F10, F40


 
『わが国製造業における研究開発投資の決定要因』
後藤 晃・古賀款久・鈴木和志(東京大学先端経済工学研究センター/文部科学省・科学技術政策研究所/明治大学商学部)

 本稿は産業レベルの変数(専有可能性と技術機会)および企業レベルの変数(売上高とキャッシュフロー)を用いて、わが国企業の研究開発投資に対する決定要因を論じた。専有可能性と技術機会は、これまで数量化の難しかった変数であり、本稿では質問票調査から得たデータを基礎に作成している。推計の結果、専有可能性と技術機会は、いずれも研究開発投資の決定要因として重要な要因であることが示された。これに対して、キャッシュフローは、先行研究とは異なり、大規模企業中小規模企業のいずれかにおいてもバインディングであることが示された。

事項分類番号:120
JEL Classification : O32


『パキスタン北西辺境州における動学的貧困の諸相』
黒崎 卓(一橋大学経済研究所)

 この論文では、途上国の低所得世帯がリスクに対してどのように脆弱であるのか、またどのような階層が特に脆弱であるのかについて、パキスタン北西辺境州農村部の2時点パネルデータを用いて定量的に分析した。カテゴリー分けに基づいた分析と、FGT貧困指標の慢性的貧困と一時的貧困への要因分解分析とを用いた結果、第一に調査地の世帯経済は所得の大きな変動にさらされているが、それがそのまま消費の変動につながらないようなリスク対処メカニズムがある程度機能していること、第二にこれらのメカニズムを十分利用できずに所得の低下が消費の著しい低下に結びついてしまう世帯が少なからず存在し、このような世帯においてはこどもの教育の切り捨てなど長期的にも公正水準が著しく低下するような対応がとられていること、第三に、動学的に脆弱な貧困層には、女性が世帯主の世帯、土地を持たず労働力が農業労働や日雇いなど上安定なものに限られている世帯などが含まれていること、などが判明した。

事項分類番号:025, 130
JEL Classifications : I32, Q12


『労使関係と赤字調整モデル』
野田知彦(桃山学院大学経済学部)

 日本においては一期の大きな赤字、または、二期連続の赤字の場合に解雇、希望退職を含んだ大規模な雇用調整が行われるという経験則が確認されている。本講では、このような上連続な雇用調整を視野に入れた赤字調整モデルを中堅、中小企業のパネルデータを用いて労働組合の有無別に推定した。その結果、赤字期に調整速度が速くなるのは、従業員が300人以上の規模が大きく労働組合の存在している企業であることがわかった。これらの企業では、他の企業に比べて通常時の調整速度は遅いが、赤字期には調整速度が速くなっている。これらの推定結果は、比較的規模が大きく組合の存在している企業では赤字になるまで解雇、希望退職を含んだ大規模な人員整理を行いにくく、雇用調整が遅らされるということを示している。赤字調整モデルの推定から、労働組合の雇用保障に対する効果を確認することができた。

事項分類番号: 083, 084
JEL Classifications : J23, J51


『国有企業における所有件改革は有効か ―中国鉄鋼企業に関する事例研究―』
劉徳強(東京学芸大学教育学部部)

 国有企業における所有権改革が果たして有効であるかどうかに関しては、大きく議論が分かれている。しかし、この問題に関する実証分析が乏しいために、どの主張にも説得力のある裏付けがないのが現状である。本論文では、中国鉄鋼業を対象に、較的豊富で信憑性に高い第三次工業センサス資料と比率を指標として所有権改革の生産性への効果を分析した。分析方法としてFixed Modelに基づく生産関数分析を採用した。分析結果によると1)所有権改革は従来の国有企業体制をとっている企業の生産性向上には有効ではないが、株式制度が導入された旧国有企業においては、国有資本と比べ、法人資本が生産性の向上に貢献している。このような分析結果から、国有企業を抜本的には、非国有資本の比率を高めると同時に、企業形態の転換を逸そう推進する必要があると言えよう。

事項分留番号: 105
JEL Classifications : D23, L61, P51


『資産価格が消費に与える影響について ―アメリカのケース―』
祝迫得夫(一橋大学経済研究所/筑波大学社会工学系)

 金融資産が消費に与える資産効果、とくに株価の資産効果は、実物経済の変動の要因として、しばしば注目されている。しかし、消費と株価はともに前向きの経済変数であるため、「純粋な」資産効果というものが存在する余地は、ほとんどない。本論文では、アメリカ経済史上の出来事である。1929年・1987年それぞれの株価暴落に関して、この議論が正しいものであることを検証する。同時に、1990年代のアメリカの消費ブームの関係についても、検証をおこなう。1990年代初頭に始る消費ブームが、1990年代末の株価ブームより先に発生したという点で、この時期のブームの状況は、それ以前の(日本のバブル期を含む)株式市場の熱狂とは異なっている。一般的な認識と異なり、1997年ごろまでの株価の上昇はバブルではない可能性が高いが、一方、1998年から2000年にかけて一層の上昇は、どのような議論を持ってしても正当化するのは難しい。

事項分留番号: 015, 061
JEL Classifications : E20, E44, N12
 
Vol.53, No.2 2002
特集 日本の経済経度・経済政策
『日本の賃金制度と労働市場 ―展望―』
中村二郎・大橋勇雄(東京都立大学経済学部・一橋大学大学院経済学研究科/経済学部)

 バブル経済崩壊後、我が国の内部労働市場の変化について様々な議論が行われている。実際、内部労働市場を特徴付ける年功的な賃金と長期的雇用関係については、近年、これまでには見られなかった顕著な変化が見られる。そのような変化に対して、内部労働市場崩壊論まで含めてさまざまな分析が行われている。しかしながら、必ずしもそれらの議論が体系的に整理されているとは言えない。特に、労働者の労働意欲や、技能形成、転職行動などに大きな影響を与える企業内の「賃金の決め型」については、近年、組織の経済学や人事の経済学などで大きな関心がもたれているにもかかわらず、賃金プロファイル(年功的賃金)との関連ではあまり厳密な検討がなされてこなかった。本論文では戦後の日本における労働市場の動向や賃金の決め型の変遷などを踏まえた上で、内部労働市場に関する最近の理論および実証分析に関する議論を整理するとともに今後の展望を行った。

 
『企業バランスシートと金融政策』
細野 薫・渡辺 努 (名古屋市立大学経済学部・一橋大学経済研究所)

 金融政策のバランスシートチャネル理論によれば、金融引き締めは企業の正味資産を減少させるので、引締め期には投資が正味資産の多寡に縛られる度合いが強まる。本稿では、(1)各年における企業の正味資産と投資率の間のクロスセクションの関係を推計する、(2)正味資産と投資率の関係の強さが金融政策の変更によってどのように影響されるかを調べる、という2段階の推計を行うことによりこの理論予測を検証する。本稿のファインディングは次の2点である。第1に、企業の正味資産と投資率の間にはクロスセクションで正の相関があり、この正の相関は金融引締め期に強まる傾向がある。これはバランスシートチャネル理論と整合的である。この傾向は、企業規模でいえば中堅・中小企業、業種でいえば製造業で特に顕著である。金融引き締め期には正味資産が減少し流動性制約に直面する企業の割合が多くなるため、正味資産と投資率の相関が強まると解釈できる。第2に、1990年代に正味資産と投資率の相関が高まったとの証左は見出せない。この時期の投資低迷の理由として正味資産の低さが投資の足を引っ張っているという見方があるが、そうした見方は支持されない。むしろ、1991年以降の長期にわたる金融緩和策によって、正味資産が投資を縛る度合いが弱められたという、バランスシートチャネル理論に沿った見方が支持される。ただし、業種別にみると、建設・上動産など、正味資産と投資率との相関と金融政策との関連が希薄な一部の業種では1990年代後半に両者の相関が高まっており、これらの業種では正味資産の低下により投資が抑制された可能性を示喫している。

『日系企業のインド進出と職務意識の変化 ―いわゆる「日本的経営」はインドで受容されつつあるか?―』
清川雪彦・大場裕之・P. C. Verma(一橋大学経済研究所・麗澤大学・前Institute of Economic Growth, India)

 本稿の目的はいわゆる「日本的経営」の海外への移転可能性ならびにその効果について、経済自由化が急速に進展しつつあるインドを対象に職務意識の観点から、経営移転の真の意味とその受容状況を実証的に捉えることである。
 この目的のため、我々は1998年、インドで日系合弁企業3社とインド企業2社の従業員計247吊に対し、職務意識調査を行った。それというのも経営の移転とは、一種の「文化移転」に他ならないがゆえ、その受容は当該企業従業員の職務意識(あるいは価値観)の変容を伴って、はじめて実現しうるものだからである。
 そして我々の調査データに対する統計的判別分析の結果、いわゆる「日本的経営」は、日系合弁企業の従業員とくにその労働者層において、十分好意的に受け入れられつつあることが確認された。すなわち各種の日本的制度や慣行の導入により、「職務満足」や「組織上の一体感」などが大きく増進され、その結果意欲の高い労働力が形成されつつあることが判明した。こうした順調な経営移転の背後には、平等主義や集団主義に対する好意的受容が存在するものと判断される。


『役員賞与とメインバンク』
阿部修人・久保克行 (一橋大学経済研究所・一橋大学経済研究所)

 この論文の目的は、安定したメインバンクの存在が、経営者のインセンティブ及び企業の業績に与える影響を分析することにある。過去の研究ではメインバンクと企業業績の変動の関係が肯定・否定両方の立場からなされてきたが、この論文では、メインバンク関係が経営者のリスク、具体的には役員賞与の変動に対して与える影響に着目している。1989-1999年の電気機器産業56社のデータを用いた分析の結果、企業業績の変動などの要因をコントロールした上で、安定したメインバンク企業を持つ企業では経営者の賞与の変動が有意に小さいことが示された。すなわち、メインバンク企業を持つ企業の経営者は、より安定した賞与を得ているといえよう。また、確率的生産可能性フロンティアを用いた分析では、安定したメインバンクを持つ企業の業績は、それ以外の企業と比較してやや低いことが示されている。

『労働組合の賃金に及ぼす効果 ―韓国の種別賃金実体調査を用いた分析―』
元鍾鶴 (延世大学東西問題研究院)

 本稿では1987年の労働運動を前後とした韓国の労働組合が賃金に及ぼす影響を企業規模別に分析した。分析結果から、まず、労働組合の賃金上昇効果は企業規模によって異なることが明らかになった。この結果から、韓国や日本のように労働組合が企業別に組織されている場合は、労働組合の賃金効果を正確に捉えるためには規模別に分けて分析することが望ましいことが確認できた。そして、労働組合の賃金効果を要因分解した結果、男性は労働組合の有無による賃金格差と個人属性の変化、女性は係数変化の差を通じて賃金が上昇していることが分かった。さらに、個人属性を分化した結果によれば、労働組合は労働者の勤続年数を増加させている。最後に賃金分布や賃金プロファイルの傾斜で労働組合の賃金平等かを考察した結果、男性においては労働組合の賃金平等か効果が見られたが、女性においては見られなかった。

『【調 査】景気動向のモデル分析 ―そのフロンティア―』
加納悟 (一橋大学経済研究所)

 本論文ではDynamic Factor Model (DFM) を中心に景気動向のモデル分析のフロンティアを紹介するとともに、その発展方向について考察する。まず2節ではDMFの基本型とその推定法について述べる。3節では景気変動が景気の拡大期と縮小期で異なることを想定し、レジーム間のスイッチ(景気の転換)を組み入れたモデルとその推定法について紹介する。さらに本論文の基本的な考え方としてレジームが観察可能であるときのモデル化について考える。4節では景況感をモデルに組み込み景気指標の作成に利用することを考えるとともに、その適用例を紹介する。5節においては4節のモデルをわが国のデータに適用し、2000年の景気の山を推定する。6節ではレジームスイッチの定式化を吟味する。特にスイッチの推移が1階のマルコフ課程に従うか、推移確率は他の外生変数に依存してないのか、そして推移確率を記述するパラメータが時間に関して上変かを統計的に調べる。7節は以上をまとめた結語に当てられる。
 
Vol.53, No.3 2002
特集 世代間利害調整
『世代間衡平性の厚生経済学』
鈴村興太郎 (一橋大学経済研究所)

 年金制度の改革のように現時点で重複して共存する世代間の負担の衡平性の、問題から、地球温暖化に対処する国際的な制度設計と合意形成のように長期にわたり国境さえ越えて将来世代に影響をおよぼす環境的外部性の問題にいたるまで、多くの経済問題の核心には世代間衡平性という共通の難問が潜んでいる。本稿は、長期にわたる環境的外部制の問題を念頭において、世代間衡平性に関する厚生経済的研究の現状を簡潔に展望・評価することを目的としている。まず、従来の規範的経済学の蓄積のなかから2つのCambridge traditions を掘り起こして、それぞれの伝統が世代間衡平性の理論にもたらす示唆を批判的に評価する。次に長期にわたる環境的外部制の問題のユニークな特徴を確認して、このような現象を的確に分析する厚生経済学はどのような情報的基礎を必要とするかに関して私見を述べる。最後に、伝統的アプローチに替わる責任と補償のパラダイムを説明して、このアプローチが開拓する新たな理トン適展望に素描する。

『雇用面からみた世代間利害調整』
井口 泰・西村 智・藤野敦子・志甫 啓 (関西学院大学経済学部・関西学院大学経済学部・関西学院大学大学院生・関西学院大学大学院生)

 雇用面からみた世代間利害上均衡の概念を確立し、その調整を図ることは、人口の少子・高齢化の下で、合理的な政策決定を促す上で重要である。雇用面からみた世代間利害調整に関し、これまで実施した理論・実証的研究の主要成果は次の通りである。@1990年代において、高齢者の雇用保障が若年者の失業を増加させるとの仮説は、マクロ・ミクロの両面から支持できない、A日本の育児の「機会費用」は欧米諸国と比較し非常に高く、このまま女性修業を拡大すれば少子化を促進し、世代間利害の上均衡を拡大しかねない、B労働時間短縮や柔軟化は、家計内分業や出生率の改善にプラスに作用し、世代間利害調整に貢献できる、C「地域統合」の枠組みで人材の国際移動を促進すれば、「頭脳流出」のリスクを抑制し、大量移民受け入れを回避し、世代間利害調整にも効果がある。総じて、世代間利害調整の視点から、少子・高齢化対策と外国人労働者政策の合理的な組み合わせを構想する必要がある。

『政治的信頼と世代間ギャップ ―政治的システム・サポートの変化―』
田中愛治 (早稲田大学政治経済学部)

 本稿の目的は、まず第1に、日本の政治システムに対する国民の支持態度の変化を時系列に追い、またその意識構造の変化を探ることにある。次に、その政治システム支持が社会保障システムへの支持にもつながるのかを検証することである。本稿では1976年から2001年までの世論調査データを分析し、それらの仮説を検証することを主眼とした。同時に、日本人の政治意識に世代間の格差が日本の政治システム支持ならびに社会保障システムにも、さらには内閣支持率にも、影響を与えているかどうかを検証した。マクロな視点から見ると、内閣支持率の時系列変化が日本の政治システム支持の変動を説明するように見えるが、2001 年に実施した世論調査データの分析によれば、内閣支持は政治システム支持にはほとんど影響を与えていなかった。しかし、政治システム支持のある1側面は、世代とともに社会保障システムの支持に影響を持っていたことが示されたのである。

『レセプトデータによる医療費改訂の分析』
鴇田忠彦・細谷 圭・林 行成・熊本尚雄 (一橋大学大学院経済学研究科/経済学部・一橋大学大学院生・一橋大学大学院生・一橋大学大学院生)

 日本の公的医療保険制度は、高齢化の進展により高齢者医療費の急速な増加を招き、現在存続の危機にある。老人医療費の無料化政策以来、高齢者自己負担の低さによる受診率の高さ故に、老人医療費は若年世代の4瑛以上に達する。医療費は若年世代に負わされ、医療は年金同様に賦課方式に準ずるものとなった。1997年9月に医療費の改訂が行われたが、それは組合健保の被保険者本人の自己負担を1割から2割に引き上げ、同時に薬剤一部負担の導入および高齢者外来医療費の改定だった。この改定効果を本稿では組合健保のレセプトデータによって明らかにする。まず総括的な記述統計により、本人の外来の受信抑制と1レセプトあたりの医療費の低減が明らかにされる。次に改定効果を計量分析し、当該改定が被保険者本人に相当の影響を及ぼしたが、特定の所得階層への偏った影響は認められず、その点で、必要上可欠の受診の排除は認められなかったことなどが明らかにされる。

『枯渇性資源・環境と持続的成長』
浅子和美・川西 諭・小野哲生 (一橋大学経済研究所・上智大学経済学部・筑波大学社会工学系)

 本稿では、枯渇資源や環境問題が経済成長の制約となる状況下で世代間の分配問題を考慮すると、「持続的成長」がコンセンサスを得やすい選択肢となることを考察する。ここで持続的成長ないし持続可能な発展経路とは、時間の経過につれて社会厚生が低下しない経済成長経路であり、その意味で後世代に対して一方的に負担を強いることのない世代間の分配状況である。こうした問題の検討を対象とした分野を「環境と成長の経済学」と呼ぶならば、本稿はそのコンパクトな展望となっている環境と成長の経済学では、基本的な問題認識として、望ましい経済成長とはいかなるものか、分権的市場機構で望ましい成長経路を達成できるか、の2つの主な関心事となる。実は、これらの問いに対する答えは、枯渇性資源を考える場合と環境破壊・汚染を考える場合とで異なる。その違いを明確にするため、本稿では当初にこれらを別の問題として扱い議論し、後にその総括を行う。

『ロシアにおける1990年代の人口・年金危機 ―移行経済の世代間利害調整に関する予備的考察―』
久保庭真彰・田畑伸一郎 (一橋大学経済研究所・北海道大学スラブ研究センター)

 本稿は、1990年代のロシアにおいて、高インフレ下で生産危機と平行して進行した人口と年金の危機的状況を統計的ないしは制度的に分布することを目的としている。人口危機に焦点を定めたパート1では、今後予想される長期人口のスタートを早期化したのもとして1990年代人口危機を位置付け、その統計的内容を国際比較の中で明らかにする。危機による早死男性人口数は1992-2000年で約200万人にのぼると推定される。従属人口指数(比率)からみた年金負担の動向と見通しにも言及する。年金危機を取り扱うパート2では、1990年代にロシアの年金は大幅に低下し、最低生存費をわずかに上回る程度で推移したことを実証する。これには、従属比率が極めて高いこと、国家の管理が弛緩するなかで実際の保険料率が低いこと、インフレに対するスライド制を著しく弱めるような年金算定方法がとられたことなどが影響した。

『【調 査】最近の年金論争と世界の年金動向』
高山憲之 (一橋大学経済研究所)

 1994年に発表された世界銀行の報告者(Averting the Old Age Crisis)は、活発な年金論争を呼びおこした。本稿では、まず初めに、その論争における主要なポイントを整理し、現時点における到達点を明らかにする。当初、意見が対立しているようにみえたいくつかの論点において共通の理解が現在、進みつつある。ついで、最近における世界各国の年金改革の動きを紹介する。以上の2つの考察を踏まえ、最後に、日本における今後の課題を議論する。
 
Vol.53, No.4 2002
特集 日本の経済制度・経済政策
『日本型コーポレート・ガバナンス』
星 武雄 (カリフォルニア大学サンディエゴ校)

 コーポレート・ガバナンスは、経営者と種々の利害関係者の間の問題を軽減するための諸制度の体系として理解することができる。経営者と資金提供者および労働者の間の問題を考えたモデルを分析することによって、経営者と資金提供者の間の問題を軽減する制度と経営者と労働者の間の問題を軽減する制度の間には相互補完性があることを確かめることができる。日本型のコーポレート・ガバナンスは、銀行と企業の間の密接な関係、終身雇用と企業内訓練、取引先企業間の長期的関係などによって特徴付けられてきたが、1980年代以降、銀行と企業の間の関係が大きく変化している。この変化が、日本型コーポレート・ガバナンスの他の側面にどのような影響を与えていくのかを実証的に見極めることが重要である。

 
『1930年代における日本・朝鮮・台湾間の購買力平価 ―実質消費水準の国際比較―』
袁堂軍・深尾京司 (一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程・経済産業研究所/一橋大学経済研究所)

 我々は1934-36年の日本・朝鮮・台湾間について、50品目を超える絶対価格データと家計調査等に基づく消費ウエイトを使って消費者物価絶対水準比を推計し、これをもとに3国間で一人当たり実質消費水準や実質GDPの長期比較を行った。その結果、1934-36年平均で見た消費者物価絶対水準は、朝鮮は日本の0.86倍、台湾は日本の0.84倍であった。また、台湾と朝鮮を直接比較した場合もこの2つの結果とほぼ整合的で、朝鮮は台湾の1.03倍との結果が得られた。以上の推計結果はMaddison(1995)の推計が含意するGDPデフレーター比(そこでは朝鮮の方が台湾より格段に安かったとされている)とは大きく異なっていた。また、3国の一人当たり実質消費水準を比較すると、朝鮮の方が一人当たりGDPが高かったとするMaddisonの推計結果とは反対に、我々の推計では戦前期において朝鮮と比べて台湾の一人当たりの消費の方が格段に高いとの結果を得た。各国間の相対的な豊かさはGDPの実質成長だけでなく、交易条件変化の影響を受ける。Maddisonの方法は交易条件の変化について無視しているために、遠い過去については現実と乖離した推定結果になっている可能性がある。交易条件が長期にわたって悪化した国に彼の方法を適用すると、この国の過去の豊かさを過少に評価することになるためである。

『消費者物価のクロスセクション比較について―全国物価統計調査の指数算式についてのノート―』
宇南山卓 (慶応義塾大学総合政策学部)


 物価のクロスセクション比較を行う調査として「全国物価統計調査」が行われている。その調査で計測された物価指数である「地域差指数」が、いくつかの地域において、域内全地域が当該地域の平均を上回るという不整合な現象を起こしている。
 本稿ではこの平均値が不整合なケースを完全に回避する指数算式を構築した。それは基準となる平均価格の算出の際に、現行の「各財に対する各地域の支出額をウエイトとした加重調和平均」ではなく、「財に依存しない共通のウエイトを用いた加重算術平均」としたものである。
 また、構築した算式に対し経済学的な解釈をつけた。地域差指数に新たな解釈は、価格に関する情報が不完全である場合に、購入地点を特定の地域に限定されることによって、同一の財のバスケットを購入するのに必要となる支出額の違い、というものである。他のクロスセクション比較を行う指数算式との関係について考察することが今後の課題である。


『全国物価統計調査の算式について―宇南山論文へのコメント―』
美添泰人 (青山学院大学経済学部)


 全国物価統計調査における地域差物価指数の算式に関して、宇南山(2002)は、全地域の地域差物価指数が地域全体の平均指数を上回るという「平均値不整合性」が発生することを指摘し、それを解決する新たな指数を提案している。本稿では、現行の平均価格算式を前提として、平均値不整合性が発生しない地域差指数の算式を導出することも可能であることを示している。その算式は現行の加重調和平均と統一的な解釈を可能とし、従来の指数との継続性を維持しながら平均値不整合性を排除することができるものである。

『【調 査】社会資本の資産評価』
浅子和美・野口尚洋 (一橋大学経済研究所・一橋大学大学院経済学研究科博士課程大学院生)

 本論文では、社会資本(政府資本)の資産評価を行う。日本の社会資本については、今ではその生産力効果についてはかなりの実証分析の蓄積があるが、資本ストックの資産評価はほとんど行われてこなかった。本論文で問題とする社会資本の資産評価は、民間資本に対してと同様、その資本が産み出す収益を基に資本還元されるべきであるとの出発点に立つ。端的には、過去の資本投下額と対比されるべきものとしての帰属価値である。具体的には、民間資本に対しての「トービンのq」に対応する指標を、都道府県単位での社会資本について作成する。計測された社会資本のトービンのqは、全国平均で時系列的に1.5程度の水準を推移してきており、帰属資産価値としては投下額の5割増しに評価されることが理解される。また、関東や中部・近畿といった都市型地域では社会資本のトービンのqは2.0から3.0の水準に達するのに対し、残りの地方型地域では1.0前後の水準を推移してきたとの対照的な推計結果を得た。