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論文要旨

Vol. 70, No. 3, pp. 253-270 (2019)

『経済成長と持続可能性 --社会進歩の多次元性--』
ダスグプタ プルナミタ (経済成長研究所,デリー)

重要なことは,いかに成長するかであって,経済成長自体ではない.「いかに」成長すべきかという問いに対する答えは,社会が進歩を定義する際に用いる価値と原理によって決まる.厚生は規範的であって,社会にとって何が重要かということには複数の視点が存在する.福利自体にいくつかの次元が存在するのである.将来を持続可能にするには,トレードオフを最小化して,これらの次元間の相乗効果を高める必要がある.経済成長は引き続き福利の決定要因の一つであるが,近年は環境の持続可能性が重大な要素になっている.本論文は,ISPS報告書の第4章(Dasgupta at al. 2018)を利用しながら,持続可能な社会にとって何が重要かに関する知見をまとめる.論点は多岐にわたるが,主眼は経済成長と環境の質という二つの領域の相互作用に置かれる.現在入手できる科学的根拠が明らかに示しているのは,長期的な持続可能性のための社会的・経済的な移行の必要性であり,持続可能性は貧困や不平等の削減とともに環境悪化(大気および水質汚染,気候変動)の停止を求める.経済成長は,世界のいくつかの地域にとって依然として重要であり続けるだろう.というのも,貧しく恵まれない人々が受け入れることのできる生活の質を提供するための資源の再分配が,近い将来に起こる可能性は低いからである.どれだけ成長するかよりもいかに成長するかの方がはるかに重要であるという証拠が蓄積されつつあり,集団行動のための制度は重要な役割を果たす.