HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 70, No. 2, pp. 146-167 (2019)

『銀行-企業間関係と中小企業の資金調達 --近年の研究動向--』
植杉 威一郎 (一橋大学経済研究所)

銀行との間における長期的かつ多様な取引関係は,社債市場や株式市場へのアクセスが限られる中小企業が安定的に資金を調達するために重要である.同時に,密接な銀行-企業間関係は,銀行に生じた負のショックが中小企業に波及する際の経路にもなる.世界的な金融危機の発生とその後の深刻な景気後退の後,金融システムで生じた危機がどのようにして銀行から企業部門に波及するのか,密接な銀行-企業間関係はその波及程度を緩和できるのかといった点についての関心が高まっている.本稿ではまず,銀行貸出チャネルに関する近年の実証分析を紹介する.次に,密接な銀行-企業間関係が,金融危機下における中小企業の資金繰りや銀行貸出チャネルの波及の緩和に果たす役割についての研究を概観する.最後に,震災をはじめとする自然災害の影響の銀行貸出チャネルを通じた波及に関する研究内容を紹介する.