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論文要旨

Vol. 69, No. 3, pp. 242-275 (2018)

『インド零細・小規模企業の企業家能力,インフォーマリティと選好の異質性』
後藤 潤 (神戸大学大学院経済学研究科), 石崎 弘典 (Rebright Partners Pvt Ltd), 黒崎 卓 (一橋大学経済研究所), 澤田 康幸 (東京大学大学院経済学研究科), 津田 俊祐 (Brown University)

インドのデリー首都圏の零細・小規模企業家を対象に,伝統的な業種におけるインフォーマルセクター,同業種におけるフォーマルセクター,近代的な業種であるIT産業の企業家の選好と企業業績を分析した.ラボ実験によって計測した社会・リスク・時間選好と,信頼度に関する主観的調査結果を用い,3つのタイプの企業家の選好が異なることを明らかにした.イノベーションの採択や売上高といった企業業績を被説明変数とした重回帰分析からは,企業家の社会・リスク・時間選好の違いがパフォーマンスと相関しており,相関の強さや符号もセクター間で異なることが判明した.IT産業のような競争的環境においては,リスク愛好的企業家や,弾力的なリーダーシップを持つ企業家に率いられた企業のパフォーマンスが良好だった.これに対し,伝統的業種のフォーマル企業においては,IT産業でプラスに働く選好が逆方向に働くことがあり,政府の登録制度などが一種の既得権益を生み出して非競争的環境を作っている可能性が示唆された.