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論文要旨

Vol. 69, No. 1, pp. 1-17 (2018)

『ソフトウェア開発における早期すり合わせの効果と働き方改革への示唆』
水上 祐治 (日本大学生産工学部), 大湾 秀雄 (東京大学社会科学研究所)

働き方改革の議論が進む中,生産性や質を高めながら残業を削減する方法が模索されている.本論文では,早期のコーディネーションを目的に開発プロセスを変更した自動車部品メーカーにおけるソフトウェア開発のプロジェクト進捗管理データを用いて,ソフトウェア開発におけるすり合わせ時期の前倒しの影響を定量的に計測した.取り組みの有効性をみるため,残業時間,製品の質,生産性への影響を検証した.開発プロセスの変更は,(1)労働時間の平準化を通じ残業時間を減少させ,(2)出荷後に発見される欠陥率を有意に引き下げたが,(3)開発期間中の仕様変更とコミュニケーションの頻度の著しい増加の結果,生産性には有意な影響を及ぼさなかった.興味深いことに,経験(勤続年数)による欠陥率(統合テストおよび出荷後)の低減効果は,プロセス変更後有意に小さくなった.早期すり合わせが仕事と労働者の生活の質を向上させると同時に,情報共有を通じたチームでの問題解決を容易にすることで,属人的な知識や経験への過度の依存を回避させたと解釈できる.