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論文要旨

Vol. 68, No. 4, pp. 348-370 (2017)

『戦前日本農業の規模と土地生産性の相関関係 --山形県庄内地方(1935年)の横断観察研究--』
有本 寛 (一橋大学経済研究所), 藤栄 剛 (明治大学大学院農学研究科), 仙田 徹志 (京都大学学術メディアセンター)

農業生産における規模と生産性の逆相関関係は,発展途上国を中心に広く報告されており,農地の配分効率性の観点から政策的な関心も高い.本稿は,『庄内地方米作農村調査』(1935年)の農家レベルのミクロデータを整備し,山形県庄内地方の稲作でこの逆相関がみられるか,またその潜在的な要因となる農地貸借市場は効率的だったのかを検証する.検証の結果,生産性および投入強度について,明瞭な逆相関関係はみられなかった.農地貸借は,余剰農地の貸し出しはほぼ完全にできているものの,借り入れは不十分であった.これらの結果は,農地市場がおおむね効率的だったため,生産性や投入強度の逆相関が発生しなかったことを示唆している.ただし,農地不足の農家は借り入れが十分できず,家族労働力を過剰に抱え込んでしまった可能性はある.逆にいえば,大規模層は,土地生産性を落とさず労働力を節約できており,庄内地方で労働節約的な技術(耕地整理と乾田馬耕)が展開したことと整合的である.この技術採択を境界として大規模化する農家と落層する農家に両極分解したと考えられる.