HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 68, No. 4, pp. 289-302 (2017)

『景気循環理論と内生的成長理論との統合 --研究動向と日本経済への適用可能性--』
陣内 了 (一橋大学経済研究所)

本稿では,景気循環理論と内生的成長理論とを統合する最近の研究が,現実の経済を理解する上で有益な視点を提供しうることを示す.はじめに,二つの理論が過去数十年の間,かなりの程度,独立して研究されてきた理由を検討する.続いて景気循環理論と内生的成長理論の両方の要素を併せ持つ経済モデルを提示する.モデルから得られる含意を議論するにあたっては,戦後の日本経済史,特に80年代のバブル景気,バブルの崩壊,それに続く失われた20年を念頭に置く.モデル経済における資産バブルや複数均衡の役割に注目し,モデル経済においてもバブルの崩壊は大きな不況が引き起こすこと,また,バブル崩壊後の景気回復はバブル期の景気拡大に比べ力強さに欠けることを示す.この他に,以下の予測をモデルから得る.すなわち,第一にバブル期の経済成長率は資産バブルのない時期の経済成長率よりも高い,第二に金融市場の未成熟な経済は資産バブルをあえて許した方が排除するよりも長期的には高い経済成長率を実現できる,第三に金融市場が発達した経済では資産バブルは経済厚生を下げる,という予測である.