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論文要旨

Vol. 67, No. 4, pp. 307-325 (2016)

『1980年代以降の長期雇用慣行の動向』
加藤 隆夫 (コルゲート大学経済学部), 神林 龍 (一橋大学経済研究所)

本稿では,いくつかの政府統計を用いて,1980年代以降の日本における長期雇用慣行の動向を考察した.得られた知見は以下の通りである.(i)平均勤続年数の低下は,勤続5年に至らない被用者が増加したことによって起こっていて,勤続5年を超えた被用者について平均勤続年数の低下は起こっていない.(ii)同様に,勤続5年を超えた大卒被用者について,十年残存率も低下したとはいえない.(iii)一年間の離職確率・失職確率をみても,大卒長期勤続層で大きな変化が起こったとはいえない.(iv)大卒長期勤続層の年齢コホートに占める比率も,顕著に低下しているとはいえない.以上のように,一定時間の勤続を経ていったん定着した大卒被用者の雇用が尊重されなくなってきているという意味で,長期雇用慣行が衰退しているかと問われれば,それは明らかではない.もちろん,近年の日本の労働市場の特徴は,短期勤続階層の増加にあるが,それは労働市場自体の拡大と並行しており,長期勤続階層の絶対数が減少しているわけではないのである.