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論文要旨

Vol. 67, No. 2, pp. 97-106 (2016)

『規範的経済学の対象・方法・情報的基礎--イントロダクション--』
鈴村 興太郎 (一橋大学名誉教授・日本学士院)

規範的経済学は,経済の制度や政策の善・悪を評価すること,現存の制度や政策の欠陥を改善する方法を設計して実装する経済学の分野である.この論文は,規範的経済学の対象・方法・情報的基礎を説明することを課題としている.現存制度の在り方を分析する実証的経済学とは対照的に,規範的経済学は制度を選択可能な変数と考えて,その設計・評価・選択・実装の可能性を追求する.両分野の相違を反映して,実証的経済学の情報的基礎は現実の経済活動の成果を記述した情報であるが,規範的経済学は想像上の境遇の交換など,現存制度の性能を理解するために反事実的な情報をも駆使する点に特徴を持っている.この事実を強調するために,もはや存在しない遠い過去世代およびいまだ存在しない遠い将来世代を,現存世代と並行して考慮すべき地球温暖化問題を例にとり,規範的経済学の情報的基礎は伝統的な厚生主義を越えて拡大されるべきことを主張する.