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論文要旨

Vol. 65, No. 4, pp. 345-361 (2014)

『公的介護保険は家族介護者の介護時間を減少させたのか? —社会生活基本調査匿名データを用いた検証—』
菅 万理 (兵庫県立大学経済学部), 梶谷 真也 (明星大学経済学部)

本稿の目的は, 2000年に導入された公的介護保険が家族介護者の介護時間に与えた効果を, 『社会生活基本調査』のマイクロデータを用いて検証することである. 「介護・看護」に費やした時間を被説明変数とし, 介護保険給付の対象となる65歳以上の高齢者を介護している家族介護者をトリートメントグループ, 64歳以下の者を介護している家族介護者をコントロールグルーブとしたdifference-in-differences (DID)推定を行った. ADLが指す行動と近似する「身の回りの用事」について, 一人で自立してできる程度を介護必要度の代理変数として用いて男女別分析, 女性については学歴別分析を行ったところ, 公的介護保険の導入は, 高学歴の女性の介護時間を統計的に有意に減少させていた. その他の生活行動についてDIDを追加的に行ったが, 高学歴女性のグループで仕事時間の増加は確認されなかった. 高学歴女性は家族介護を公的介護で代替し, 時間配分を効率化したと考えられるが, その時間が労働市場で有効に使用されたという結論には至らなかった.