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論文要旨

Vol. 65, No. 2, pp. 113-125 (2014)

『ラスキンの三角形 —富・美・生の総合知—』
塩野谷 祐一 (一橋大学名誉教授)

従来のラスキン研究は,彼の芸術論と経済論とを別個の主張として,別々の領域の専門家によって取り扱われる傾向があった.本論文は,ロマン主義思想の観点から両者を統一的に解釈することを意図する.彼の経済論が「生を措いて他に富は存在しない」という命題によって要約されるとすれば,彼の芸術論は「生を措いて他に美は存在しない」という命題によって要約される.「ラスキンの三角形」とは,「富・美・生」の総合知をイメージとして表したものである.この総合知の構造を解明するために,「生」の3つの側面として「能力・構図・労働」の概念を特定し,芸術論および経済論の共通の基礎として「自然」(空気・水・大地) および「精神」(感嘆・希望・愛) というラスキン特有の概念を位置づける.彼の経済学は規範的経済学であって,その経済学批判および資本主義批判は「芸術的『生』の経済学」を展開したものであり,経済思想史上独自の福祉思想の流れを代表するものと考えられる.