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論文要旨

Vol. 64, No. 4, pp. 303-319 (2013)

『非上場企業における退出は効率的か —所有構造・事業承継との関係—』
植杉 威一郎 (一橋大学経済研究所)

本稿では、中小企業を中心とする非上場企業の存続と退出が効率的に行われているか、かつ、オーナー経営者が多く事業承継が困難という非上場中小企業の特徴が、存続・退出の過程にどう影響しているかについて、延べ約3万社の企業レベルデータを用いた分析を行う。その結果、非上場企業における存続・退出の過程は概ね効率的であるとの結果を得ている。第1に、大株主経営者のいる企業も含めた非上場企業の退出確率は、生産性などのパフォーマンスが悪化する場合に高くなる。第2に、非上場企業における社長交代確率は、パフォーマンスが悪化する場合に高まり、企業に対するガバナンスがある程度機能していることを示唆する。一方で、非効率な部分も存在する。第1に、大株主経営者のいる企業では、廃業等の確率が低く、かつ、企業のパフォーマンスが大幅に悪化しても廃業までに時間を要する傾向にある。企業の解散で損失を被る経営者が、業績の回復が見込めない場合でも企業を存続させるインセンティブを持つことを示唆する。第2に、後継者が見つかりにくい小規模企業や役員数の少ない企業では、存続企業の質と退出企業の質の差は小さい。こうした企業では、自然な淘汰の程度が弱いことを示唆する。