HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 64, No. 2, pp. 132-146 (2013)

『大相撲「八百長」の誘因構造と実証分析』
堀 雅博 (一橋大学経済研究所), 岩本 光一郎 (愛知学泉大学現代マネジメント学部)

本稿では,大相撲興行におけるいわゆる「八百長」の経済学的誘因構造を明らかにすることを目的に,簡単な理論モデルを提示し,Duggan and Levitt(2002)に倣った幾つかの実証分析を行った.「星の買取り」,及び「星交換」の成立要件を考察した理論分析からは,「八百長」行為には力士が置かれた環境下での誘因構造が大きく影響しており,上位看板力士が「八百長」を行うとすれば星の買取りを,平幕/十両の力士は星交換を,それぞれ選択する可能性が大きいと考えられる一方,幕下以下の力士養成員には「八百長」の誘因があまりないことが示された.一方,Duggan and Levitt(2002)のデータ期間を約2倍に延長し,また力士養成員も含めて行った実証分析の結果,①勝越しの可能性が懸かった力士の勝率が不自然に高いという意味での「八百長」は,2000年代に入り減少していたものの,近年迄一貫して続いていたこと,②力士養成員レベルでは,統計的に検出できる程の「八百長」は行われていないこと,③2011年2月の携帯メール八百長スキャンダル以降では,関取レベルでも,統計的に検出可能な形での「八百長」は無くなっていること,④「八百長」問題で処分対象となった力士とその他の力士を比較すると,すくなくとも平均的レベルにおいて,処分対象力士の方が「八百長」に強く関与していた可能性が高いこと,等が明らかになった.本稿の分析結果は,大相撲興行の取組結果から読み取れる力士の選択(「八百長」)が経済学的な誘因構造と極めて整合的であること,また,その誘因構造の設計次第で,力士の選択は全く異なったものになり得る可能性を示唆している.