本論文では,2004年12月末に発生したインド洋津波によって,タミル・ナドゥ州の被災者がこうむった厚生水準低下の実態を,独自に収集したミクロデータを用いて分析する.インド洋津波の被災者にとって津波は全く予期せざる災害であった一方,海岸への近接度が津波被害を決定づけたため,津波被害の操作変数として,海岸からの距離を用い,消費オイラー方程式を推計した.推計結果によると,流動性制約に直面しないグループにおける所得変化が消費成長率に影響を与えない一方,漁船の損失と家計メンバーの死亡が消費成長率を有意に低下させた.このことは,ライフサイクル・恒常所得仮説から導出される理論的予想と整合的である.さらにこれらの推計結果は,自然災害に対する資産被害に対しては,信用へのアクセスの改善が必ずしも保険機能として有効に働きえない一方,被害の程度に合わせて利子補助を行うなどの政策が有効である可能性を示唆している.