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論文要旨

Vol. 61, No. 1, pp. 1-17 (2010)

『ロシアにおける出生規定要因―マイクロデータによる接近―』
雲 和広 (一橋大学経済研究所)

本稿は,ロシアで実施されているサーベイ調査(Russia Longitudinal Monitoring Survey, RLMS)の個票データに依拠し,1995年から2004年までの出生を説明する要因の抽出を行う.
 ソ連崩壊後のロシアにおける全国レベルで見る出生動態を概観すると,多く指摘される経済環境の変動のみならず,出生の近接要因もまた概ね出生率の動向と直感的に一致する形で推移していることが看取出来,ロシアにおける合計特殊出生率の低下及び上昇もまた人口学的なタイミング効果等によって影響を受けている事が示唆される.ロシアの出生率に関して,マイクロデータを利用した先行研究は多くはないが,体制転換に伴う経済の縮小を出生率低下の要因とする議論が頻繁になされる一方,ロシア本国の人口学者や社会学者を中心に,1990年代以降のロシアにおける出生率の低下は人口変動の長期的過程に位置付けるべきとする主張も根強い.
 先行研究は全て2001年までの出生データを利用するに留まっていたが,本稿はそののち出生率が持続的に上昇し続けた2004年に至るデータを用いた分析を行った.家計の所得水準が出生確率の決定に有意な影響を与えないことが示されたが,これは経済成長が直接的に出生率の回復につながるものとは言えない可能性があることを意味し得るものである.広い意味での社会状況が出生確率を上昇させる可能性は示唆された.最後に本稿の分析から得られた示唆と併せ,プーチン政権(~2008年5月)末期から導入が開始されたロシアの出産奨励策を人口学的視点から鑑みる.