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論文要旨

Vol. 60, No. 4, pp. 314-322 (2009)

『「役に立つ」経済分析とは―『経済研究』31-59巻掲載の労働経済論稿を読む―』
尾高 煌之助 (経済産業研究所・一橋大学経済研究所)

過去30年に亘って本誌が掲載した労働経済の論稿のなかから,人口,雇傭,賃金,所得分布,労使関係の5点に焦点を絞って論評する.すなわち,これらの研究の成果を,(1)明治期には死亡率は低下せず,人口転換は1920-30年に起きた,また近年の人口成長率の減退の一因は社会意識の変化に求められる,(2)長期安定的雇傭システムの機能は未だに衰えていない,(3)賃金は労働生産性によってその水準が規定されるだけでなく,相対賃金比を介して生産効率に影響を及ぼす,(4)所得分布は初期工業化の過程で不平等化し,高度成長の過程で急激に平等化した後,その後再び不平等化する兆がある,(5)労働組合活動は第一次石油危機を頂点にその後減退しているが,企業経営における労使関係の重要性まで減退したわけではない,と総括したあと,(6)実証研究が学界の共有財産として機能するためには使用された統計資料・ワークシート等を公的に保管して研究者一般の利用に提供するべく,学術アーカイヴを設立するのは喫緊の課題だと主張する.