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論文要旨

Vol. 60, No. 3, pp. 228-240 (2009)

『企業統治の「マクロ」経済学―投資家からみた失われた10年―』
村瀬 英彰 (名古屋市立大学経済学部)

本稿は1990年代の日本経済の長期停滞において観察された事実を互いに整合的に説明する動学的マクロ経済モデルを提示する。問題となる事実は、実質成長率の低下、マーシャルの k の上昇、消費性向の上昇、ゼロ名目金利、そして労働シェアの上昇である。議論の出発点は、90年代の日本企業における統治空白がもたらした利潤圧縮である。この問題に反応して、日本の家計は、生産的な資本から非生産的な貨幣へと資産蓄積手段の代替を進めた。この反応は個々の家計から見れば確かに合理的な行動だが、マクロ的には弊害をもたらす行動でもあった。とくに、その反応はゼロ金利状態における資本と貨幣の高い代替性によって支えられるだけでなく、貨幣需要増大によるデフレを通じてゼロ金利を支えるものでもあった。実際、利潤圧縮がある水準を超えて進行すると、この正のフィードバックは資本から貨幣への代替を加速し資本蓄積を激しく抑圧する。本稿はこの蓄積レジームの転換が日本経済を長期停滞に陥れた可能性を論じる。