戦前と戦後を比較した日本の所得格差に関する既存研究は,戦前の高格差社会から戦後の低格差社会への変化という図式を描いてきた.本稿では,1890-1940年について府県別の粗付加価値額を,その推計方法を可能な限り明らかにしながら推計し,府県間の経済発展格差の動向を分析した.本稿の分析によって,戦前期の府県間格差は,既存研究で主張されているよりもはるかに低く,戦後の一時期とほぼ同レベルであること,戦前期を通じて格差の縮小傾向が見られたこと,さらに,この格差の縮小が,府県間の同一産業内の労働生産性格差の縮小によって生じたことなど,既存のイメージとは異なる近代日本の経済発展像が提示される.