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論文要旨

Vol. 60, No. 1, pp. 75-93 (2009)

『非線形報酬制度のインセンティブ効果とエスニシティの影響 ―北米自動車販売会社の取引データに基づく実証分析―』
都留 康 (一橋大学経済研究所), 大湾 秀雄 (青山学院大学国際マネジメント研究科), 上原 克仁 (一橋大学大学院経済学研究科)

不連続な非線形報酬制度においては,報酬スケジュールのどの位置にいるかが,社員の日々の期待コミッション収入に大きな影響を与えるため,インセンティブ効果は一様ではない.また,取引時点操作や価格操作などのゲーミングを引き起こしやすいなどの問題点もある.本稿では,北米自動車販売会社の2005年4月から2006年12月までの取引データに基づき,非線形報酬制度の不均一なインセンティブ効果が生産性や利益率にどのような影響を与えているかの推定を試みた.主要な結果は以下の通りである.まず第1に,努力の増加がその日の期待コミッション収入に与える影響を推計して作成したインセンティブ強度の変数は,日次の販売台数の分布に対し正の効果をもつ.この結果は,不連続型非線形報酬制度によってもたらされた日々のインセンティブの変化に社員が反応している可能性を示唆する.第2に,限界コミッションと粗利益率とは,車種や取引のタイミングなどをコントロールした上でなお,負の有意な相関関係を有する.このことは,インセンティブ効果の高まりによる販売努力が値引きという方向に働いていることを示す.さらに,営業社員と顧客のエスニシティ情報を利用して以下の点も明らかとなった.(1)粗利益率への報酬制度の影響は,営業社員のエスニシティによって異なる.(2)同一エスニシティ間での取引は,エスニシティの異なる取引よりも頻度が高い.(3)同一エスニシティ間取引での粗利益率は,それ以外の取引の粗利益率と比べ有意差はみられず,また特定のエスニシティ集団に対する価格差別も確認されない.