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論文要旨

Vol. 59, No. 3, pp. 266-285 (2008)

『現物賃金と経済発展―途上国農村家計の労働供給と食糧確保に焦点を当てて―』
黒崎 卓 (一橋大学経済研究所)

途上国の経済発展における雇用形態の多様性とその機能について,現物賃金が果たす家計の食糧確保という役割に焦点を当てて分析する.まず,経済発展の初期段階において現物賃金が重要であることを様々な資料や統計データから示した上で,既存研究が現物賃金をどのように理論的に理解してきたかを展望する.既存研究で十分議論されていない視点として,食糧市場が薄く,主食価格が変動するリスクに直面する労働者家計に対して,現物賃金が食糧面での安全保障を確保する効果を持つという理論モデルを提示する.この理論モデルからは,家計の食糧需要が硬直的である場合に現物賃金を伴う雇用形態への労働供給が増えることが導出される.ミャンマー農村部のデータを用いたミクロ計量分析結果は,この理論的関係と整合的であった.