HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 59, No. 3, pp. 240-255 (2008)

『雇用変動指標の再検討―1991~2005年『雇用動向調査』をもとに―』
神林 龍 (一橋大学経済研究所)

本稿では,厚生労働省『雇用動向調査』の1991年から2005年までの個票を用い,従来の雇用創出・消失の推計に離職者の離職理由の情報を加え,1990年年代の雇用変動指標を再検討した.その結果,いくつかの観察結果が明らかになった.第一に,既存研究の推計方法は事業所間の共通ショックの影響を強く検出する性質があることがわかった.ただし,この要因を考慮しても,1990年代の雇用フローは個々の事業所に固有の要因に強く支配される傾向があるという従来の指摘はおおむね妥当する.第二に,1990年代の雇用創出は好不況に関わらず安定的に推移しており,雇用変動の大部分は雇用消失の増減から生じていることがわかった.当初は大きく異なるとされたアメリカ合衆国と日本の雇用フローの推移が似通っていることを示している.第三に,都道府県間でも雇用フローの推移は大きく異なることがわかった.この違いを説明するには,マクロショックの地域間分配によるものではなく,最低賃金制度に代表される個々の都道府県固有の要素,あるいは個々の事業所に固有の要因が重要であることが示唆される.