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論文要旨

Vol. 59, No. 1, pp. 1-15 (2008)

『メインバンクの財務状況と企業行動―中小企業の個票データに基づく実証分析―』
小川 一夫 (大阪大学社会経済研究所)

本稿はわが国におけるメインバンクの財務状況の悪化が顧客企業の行動に及ぼす影響について実証分析を行った研究である.本研究には3つの特徴がある.第1は,中小企業を対象にそのメインバンクの健全性が企業行動に与える影響を分析した点である.第2は,中小企業を対象に中小企業庁が調査した企業金融環境に関する個票データを使用した点である.この調査では中小企業のメインバンクを識別することができるとともにメインバンクに関する情報が豊富に含まれている.第3は,企業活動を多面的にとらえてメインバンクの財務状況との関連を調べた点である.
 得られた実証結果は以下の通りである.メインバンクの不良債権比率が上昇すれば,顧客企業への貸出は抑制的になり,設備投資,雇用は減少する.また,メインバンクからの借り入れの減少を補うために流動資産が取り崩されるが,同時に将来の資金需要を手当てするために流動性の積み増しが行われる.