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論文要旨

Vol. 58, No. 2, pp. 151-162 (2007)

『ロシア企業の資金調達行動―企業調査データに基づく分析―』
杉浦 史和 (帝京大学経済学部)

好況にわく現在のロシアで形成されつつある企業金融メカニズムを明らかにするため,マクロ,ミクロの両面から分析を行った.マクロ的に見ると投資源泉に占める銀行資金の役割が高まっており,企業の資産・負債構成を見ても,企業金融に占める銀行部門の役割は増大している.一方,我々が2005年にロシア国立大学高等経済院産業・市場研究所と合同で行った企業訪問調査結果に基づくミクロ分析によれば,中大規模の株式会社で外部からの借入を行っていないものが3分の一を占めており,銀行部門の発展余地は大きい.これらは,小規模で閉鎖的な企業で,パフォーマンスは優良だが投資には積極的でなく,今後金融機関の審査能力の向上によって中小企業振興の可能性がある.一方,大銀行のうち資産規模最大のズベルバンクは,金融危機以降,企業の旺盛な資金需要の一部を満たしてきた.同行の融資が最大となっている企業は,輸出実績のある有力企業で,政府との特別なコネクションを有しており,ロシアの企業金融メカニズムは政府と企業が一体となった形で形成されてきたと言えよう.同行が融資先企業に対して経営効率化を促すような審査能力を高めることが,今後の市場経済化の進展にとって,ますます重要になろう.