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論文要旨

Vol. 58, No. 2, pp. 110-121 (2007)

『社会規範と自発的協力』
奥野 正寛 (東京大学大学院経済学研究科), グレーヴァ 香子 (慶應義塾大学経済学部), 鈴木 伸枝 (駒沢大学経済学部)

通常の繰り返しゲームと違って,実際の社会では約束を破って逃げることが可能であることが多い.本稿ではプレイヤーが合意しないとゲームが継続できないというルールの下で,囚人のジレンマを自発的に繰り返すパートナーシップが生成・消滅する社会ゲームのモデルを構築し,モラル・ハザードが起きやすい状況において,どのような社会的制裁の仕組みがそれを防止するかを分析した.結論は三つある.第一に,逃げることが可能な場合でも,信頼構築によって自発的協力が可能になること.第二に,複数の戦略が共存する社会においては必要な信頼構築期間が短縮できること.第三に,やむを得ない事情でパートナーシップが崩壊した場合はその情報が伝わるという紹介状を導入することも,信頼構築期間を短縮することである.これにより,逃げることが可能であっても社会的規範を強制することが可能であり,しかも多様な戦略の共存はむしろ効率性を高めることがわかった.