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論文要旨

Vol. 57, No. 4, pp. 358-371 (2006)

『流動性の罠と最適金融政策―展望―』
高村 多聞 (一橋大学大学院経済学研究科大学院生), 渡辺 努 (一橋大学経済研究所)

本稿ではKrugman (1998)以降の流動性の罠に関する研究をサーベイし,そこで得られた知見を整理する.第1に,最近の研究が対象とするのは超短期金利の非負制約がバインディングになる現象であり,永久国債の金利に注目するケインズの定義と異なっている.ケインズの罠は超短期金利がバインディングな状態が無限遠の将来まで続く恒久的な罠であり,最近の研究が扱っているのは一時的な罠である.第2に,一時的な罠に対する処方箋としてこれまで提案されてきたアイディアの多くは,現代の金融政策論に照らして標準的なものである.流動性の罠の下で経済厚生を最大化する金融政策ルールは広い意味でのインフレターゲティングとして表現できる.流動性の罠はその奇異な見かけから特殊な現象と受け取られがちであるが,少なくとも罠が一時的である限り,それに対する処方箋は意外なほどにオーソドックスである.