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論文要旨

Vol. 57, No. 3, pp. 245-259 (2006)

『戦後イギリスにおける郊外社会の特質とその原因―ニュータウンの社会調査の事例から―』
菅 一城 (同志社大学経済学部)

イギリスでは,郊外居住が特定の階層に限らず一般的になった段階で,郊外の住宅団地に対する社会的批判が高まった.とくに,新たに開発された郊外住宅団地の物理的環境が郊外の社会的問題の原因であり,このような郊外住宅団地は労働者階級だけが暮らし,居住空間としても画一的かつ閉鎖的であり,不適切であると論じられることがしばしばあった.本稿は,1960年代半ばに1つのニュータウンにおいて開発事業目的で実施された社会調査というこれまで用いられることのなかった史料を利用して,このような議論を検討する.主婦の就業状態,日常的な買い物の行動,余暇の過ごし方に関する調査結果は,2つの側面を示している.第1に,住民の行動は多様であり,その行動範囲はしばしば広く周辺都市に及んだ.第2に,乳幼児を抱える女性は相対的に行動範囲が制約され,ニュータウン生活に対する不満も大きい.そして,そのような住民の比重が高いことが郊外社会の特徴になっている.