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論文要旨

Vol. 56, No. 3, pp. 193-202 (2005)

『整合的選好・順序拡張の存在定理・選択関数の合理化可能性』
鈴村 興太郎 (一橋大学経済研究所)

無差別関係の推移性は,人間が無限に精密な識別能力をもつことを要求する点で,選好関係の正則性の要請としては明らかに非現実的である.この欠陥を免れた正則性の概念として,鈴村(1976; 1983)は「整合性」(consistency)の概念を導入して,選好と選択の理論でこの概念が果たす中心的な役割を明らかにした.本稿は,二項関係の順序拡張の存在,選択関数の合理化可能性という2つの論脈で,整合的選好の概念が果たす重要な役割を解明した最近の成果を体系的に述べ,その意義を評価することを課題としている.セン(1969; 1970)がつとに導入した「準推移性」(quasi-transitivity)の概念も,無差別関係の推移性を放棄して強意の選好の推移性に焦点を合わせた点では,動機付けの点で鈴村の整合性概念と共通する性格をもっているが,本稿が注目する二項関係の順序拡張と選択関数の合理化の論脈では,準推移性の概念は重要な役割を果たせないことに注意すべきである.