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論文要旨

Vol. 52, No. 1, pp. 72-93 (2001)

『市場経済化の進展に伴う失業・レイオフの深刻化と職務意識の変容―中国・天津市におけるパネル調査から―』
清川 雪彦 (一橋大学経済研究所)

95年12月天津市で実施した職務意識調査のパネルデータを分析し、次のような新しい知見を得た。まず付随の離職者調査によれば、実はレイ・オフ者のなかには自己都合による 休退職者が数多く含まれている。彼らの場合もともと企業に対する「コミット メント」が低く、より条件の良い企業があれば転職したいという潜在願望を早くから有していたことが、職務意識調査から判明する。事実、こうした積極的離職者は通常のレイ・オフ者と異なり、その大部分が成功裡に再就職先を見出している。他方残留者の場合には、「コミットメント」の水準は高く、種々の制度変革に も拘らず、その主要な職務意識に変わるところはなかった。ただ製造業の苦境やインフレもあり、「職務満足度」だけは明らかに低下している。だが労働者 間では着実に「市場志向性性」が増大しており、全体として市場経済化に対する理解は深化していることが、調査より知られている。また企業内賃金格差は、ボーナスの支給増を通じ着実に拡大している。ただしボーナス自体は、必ずしも生産性の差をよく反映しているとはいい難く、その分配方式にはまだ平均主義的残滓が認められること等々が、個人データにより裏付けられる。しかし査定制に対する意識等の変化もあり、いずれ本来の業績給になるものと思われる。