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論文要旨

Vol. 52, No. 1, pp. 31-39 (2001)

『動学的最適資本所得課税』
田近 栄治 (一橋大学大学院経済学研究科・経済学部), 古谷 泉生 (一橋大学大学院経済学研究科・経済学部)

Lucas は「サプライサイドの経済学」において、均衡成長において資本所得税率をゼロとする税制改革が、資本ストック、消費などにきわめて大きな効果を持つことをシミュレーションによって示した。しかし、その分析は、税制改革の前と後の均衡の比較であり、均衡間の移行過程を分析したものではなかった。しかし、税制改革にともない資本蓄積が進むなかで、改革当初では消費や余暇が下がる。この論文は、効用関数と政府の予算制約に関して適切な仮定を設けたうえで、税制改革にともなう移行過程を分析し、次の2点を明らかにする。第1に、最適な資本所得税率はゼロとはならないが、Lucasがアメリカの現行税制と想定した40%と比べるとはるかに低い。第2に、個人の厚生改善の程度は、均衡の比較の場合と比べてかなり小さくなるが、人的資本の成長を加味すれば十分大きい。したがって、移行過程を考える場合においても、資本所得への課税は、一層の引き上げが必要である。